2020-11-02

日本:注目裁判例、指定商品「翻訳支援ツール」と同「翻訳ソフト」は類似商品とされた事例 - 工藤莞司

(「翻訳支援ツール事件」令和2年10月8日 知財高裁令和2年(行ケ)第10021号)

事案の概要 原告(出願人)は、本願商標「POET ポエット」について登録出願をした処、拒絶査定を受けて、不服の審判(不服2018-17007)を請求したが、特許庁は不成立審決をした。審決の理由は、本願商標は、引用商標(登録第4634308号)と類似する商標で、かつ、本願指定商品9類「翻訳業務を支援するためのコンピュータソフトウェア・コンピュータプログラム」(以下「翻訳支援ツール」と略)は、引用指定商品9類「電子応用機械器具及びその部品」(以下「翻訳ソフト」と略)と類似する商品で、商標法4条1項11号に該当するとしたものである。原告は、審決の取消しを求めて、知財高裁へ提訴した。知財高裁では、指定商品の同一又は類似が争点となった。

判 旨 「翻訳支援ツール」と「翻訳ソフト」の類否
本判決では、本願指定商品「翻訳支援ツール」もコンピュータプログラムである以上,引用指定商品「電子計算機用プログラム」に含まれ指定商品は同一としながらも、原告主張に従い、類似性についても判断している。
指定商品が類似するかどうかは、それらの商品が通常同一営業主により製造又は販売されている等の事情により、それらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは同一営業主の製造又は販売に係る商品と誤認されるおそれがあると認められる関係にある場合には、4条1項11号の「類似の商品」に当たる(「橘正宗事件」最高裁昭和33年(オ)第1104号 同36年6月27日 民集15巻6号1730頁)。上記(略)で検討したとおり、翻訳支援ツール及び翻訳ソフトは、生産部門及び販売部門を共通にする場合があるといえること、用途及び機能に共通する部分があるといえること、需要者の範囲が一致することがあるといえることからすれば、両者に同一又は類似の商標が使用された場合には、同一の営業主の製造又は販売に係る商品であると誤認されるおそれがあるというべきである。
したがって、「翻訳支援ツール」である本願指定商品と「翻訳ソフト」を含む引用指定商品は、4条1項11号にいう「類似する商品」に当たるものと認められる。

コメント 商標法4条1項11号事案で、指定商品の類似性に係る数少ない裁判例である。実務的には、特許庁「商品・役務類似審査基準」内で判断されるが、同基準は推定の扱いであるから、その類否争うことは可能である。その前に本判決では、引用商標の指定商品に、本願指定商品が含まれるとの認定は前掲の通りである。
本判決で知財高裁は、「橘正宗事件」判例を持ち出し、両商品の生産部門及び販売部門、用途及び機能の共通性、需要者の範囲の一致から本願指定商品「翻訳支援ツール」と引用商標指定商品「翻訳ソフト」は類似の商品と判断している。認定要素等からすれば妥当な判断と思われる。
「橘正宗事件」判例は、氷山印判例(昭和43年2月27日 最高裁昭和39年(行ツ)第110号 民集22巻2号399頁)と並ぶ、古いが重要なものである。特許庁の基準が覆された裁判例として、「腸能力事件」(平成19年9月26日 知財高裁平成19年(行ケ)第10042号)がある。