2021-02-18

工藤莞司の注目裁判:地域団体商標「庵治石」を引用して商標法4条1項15号を適用した審決が支持された事例

「庵治石事件」令和3年1月19日 知財高裁令和2年(行ケ)第10101号

事案の概要 原告(出願人・審判請求人)は、「庵治石工衆」を標準文字で表した本願商標について、指定役務を40類 「石材の加工、墓石・石塔・石碑・石製彫刻の加工等」とする登録出願をしたが、拒絶査定を受けて不服審判(2019-6143)を請求した処、特許庁は不成立審決をしたため、 原告は本件審決の取消しを求めて知財高裁に対し、本件訴訟を提起した事案である。審決の拒絶理由は、「庵治石」を標準文字で表し、「高松市庵治町・牟礼町産出の墓用・石碑用石材・自然石を使用した庭石等」に使用している地域団体商標(登録第5030818号)を引用して、本願商標は商標法4条1項15号に該当するとした。

判 旨 引用商標は、本願商標の登録出願時及び本件審判時において、「高松市庵治町・牟礼町で採掘され加工された製品に係る引用商標権者の伝統的工芸品ないし地域ブランド」との引用商標権者又はその構成員の業務を示すものとして、需要者の間に広く認識されており、相当程度高い周知性を有していたものと認めるのが相当である。
 本願商標の要部「庵治石」と引用商標とを対比すると、いずれも標準文字で「庵治石」を書して外観が同一であり、また、「アジイシ」の称呼が同一である。そして、本願商標をその指定役務に使用した場合は、本願商標の要部から「高松市庵治町・牟礼町産の花崗岩」という観念だけでなく、「高松市庵治町・牟礼町で採掘され加工された製品に係る引用商標権者の伝統的工芸品ないし地域ブランド」という観念も生じ、本願商標の観念は、引用商標から生じる観念と同一である。そうすると、本願商標と引用商標の類似性は極めて高い。
 以上を考慮すると、本願商標をその指定役務に使用した場合には、これに接する取引者、需要者は、出所識別標識としての機能を果たし得る要部「庵治石」の文字部分に着目して、地域ブランド名として周知である引用商標を連想、想起し、当該役務が引用商標権者又はその構成員との間に緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品役務化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る役務であると誤信し、役務の出所につき誤認を生じさせるおそれがある。そうすると、本願商標は、4条1項15号に該当する。

コメント 地域団体商標を巡る4条1項15号適用事案で、商品と役務間での広義の混同を認めた成立審決を知財高裁も支持したものである。レール・デュタン判例(平成12年7月11日 最高裁平成10年(行ヒ)第85号 民集54巻6号1848頁)に沿った判断である。引用商標の周知・著名性については、著名に至らない周知程度でも他の要素の判断次第では、15号適用可能を示している。また、本願商標について「庵治石」部分を要部と認定している点が特徴的である。
 地域団体商標4条1項15号適用事案として、過去に、「豊岡杞柳細工事件」(平成29年10月24日 知財高平成29年(行ケ)第10094号)があり、無効を否定した審決を知財高裁は覆している。審決はこの経験を踏まえて、丁寧な判断のようである。