2021-04-01

工藤莞司の注目裁判:結合商標について分離観察をした審決が支持された事例

(「ホームズくん事件」令和3年2月22日 知財高裁令和2年(行ケ)第10088号)

事案の概要 原告は、指定商品及び指定役務を9類、35類、42類とし「ホームズくん」の文字からなる本願商標を登録出願したが拒絶査定を受けたので拒絶査定不服審判(2020-1579)を請求した処、不成立審決がなされため、その取消しを求めて、知財高裁に提訴した事案である。引用の商標権者が補助参加した。
 審決理由は、本願商標は、引用商標(登録第5125935号右図参照)に類似し、引用商標の指定役務と同一又は類似の役務について使用するので、商標法4条1項11号該当である。

判 旨 引用商標の「耐震フォーラム」部分は、「建物の耐震性に関する講演会・討論会」程度の意味合いを認識させるにすぎず、出所識別標識としての称呼・観念を生じさせるとはいえない。
 引用図形部分は、「ホームズ君」のイメージを視覚的に描き出したもので、「ホームズ君」部分を補完するにすぎず、独立して出所識別機能を果たすと見ることはできない。
 以上によれば、本件においては、引用商標から抽出した「ホームズ君」部分と本願商標との比較によって類否を判断すべきである。
 本願商標である「ホームズくん」と、引用商標から抽出された「ホームズ君」部分とは、「くん(又は君)」の部分が平仮名か漢字かという外観上の微差を除いては、外観・称呼・観念において同一であり、指定役務も同一 又は類似であるから、互いに類似する。
 原告は、本願商標と引用商標とは、称呼が一部共通するとしても、観念・外観において顕著に相違し,また,称呼の共通性が観念・外観における顕著な相違を凌駕するものではない旨主張する。原告の主張は、引用商標から「ホームズ君」部分のみを分離抽出して類否判断することができないことを前提にする主張で、 上記で説示したところに照らして前提を欠く。

コメント 本件事案では、結合商標である引用商標に付き分離観察の是非が争われて、知財高裁も、審決同様、分離観察をして、本願商標と引用商標は類似と判断したものである。知財高裁は商標の類似に関する最高裁判例をすべて引用したが、引用商標の分離観察については、取引の経験則内のものでもある。引用商標に接した取引者・需要者は、出所表示機能があり、記憶に残る「ホームズ君」をもって、次の取引に当たると想定される。すなわち、引用商標使用の商品・役務を特定、指称するときは、「ホームズ君」の部分でも可能ということで、引用商標の要部となる。
 一時期分離観察や要部観察を否定する裁判例が続き混乱して、現在も尾を引いているが、本件事案の類似判断は、適正な分離観察、要部認定である。