テニスプレーヤーのビョルン・ボルグやサッカー選手のクリスティアーノ・ロナウドなどの著名人が自分の名前を商標として登録することはよくあることだが、自分の写真画像を商標として登録することはとても稀なことだ。あるオランダ人モデルが自分の肖像を商標登録しようとしたことを題材に、「肖像権」についてKoen de Winderが考察する。
商標出願が成功するためには、問題となっている標識に識別力があるなど、登録のための要件を満たす必要がある。文字商標であれ、ロゴなどの図形商標であれ、特徴的な標識であれば、消費者は混同の虞なしに、対象となる商品やサービスを他社の商品やサービスと区別することができる。理論的には、この保護は「肖像権」の対象となる人物の肖像や写真にも及ぶことになる。
EUにおける肖像権の法的枠組み
イメージ画像を商標として登録する申請は、これまで欧州連合商標(EUTM)制度の下で認められてきた。しかし、最近になって、人物の画像が有効な商標として機能するかどうか、具体的には、人物の写真画像が識別性の要件を満たすことができるかどうかが問題となっった。
欧州連合知的財産権庁(EUIPO)の審判部は、最近、写真画像商標の出願に関する判断でこの疑問に答えた。
オランダ人モデルの商標出願
2017年10月、オランダ人モデルのRozanne Verduin(Rozanne Verduin Holding BV、以下「Verduin社」、を通じて)は、第35類(広告及び販売促進のためのモデル及び写真モデル・サービス)および第41類(リクリエーションのためのモデルの実演)の役務を指定して、自身の写真画像を図形的EUTM(右画像参照)として商標登録を申請した。
EUIPOは2018年3月に、標識が識別性を欠いているという理由で商標の登録を拒絶した。Verduin社はその決定を不服としてEUIPO審判部に審判請求した。
Verduin社は多くの主張を行ったが、中でも重要なものは以下のものだ;
人間の脳は顔を認識するようにプログラムされているので、このような標識は識別性の要件を満たしている。
本件の写真画像が識別力をもつのは、Rozanne Verduinがヨーロッパで成功し、名声を得たからである。言い換えれば、Rozanne Verduinの写真画像は、長期的かつ集中的な使用によって識別性を獲得したといえる。
審判部は、以前の裁定で次のように述べている。「人の顔の(パスポート)写真は、その人の特定の外見的特徴を持つ固有の表現であり、苗字と名前に加えて、パスポート写真という形での顔の表現は、その人を識別し、結果的に他の人と区別するものだ」。
EUIPOは拒絶理由として、本願商標が役務に関するいかなる識別性も有していないとし、特に、関連する公衆は、この標識が役務の出所表示であると推論することはできないとした。本写真画像は、全体として、(若い)女性の頭部や顔を忠実に描写したものに過ぎず、人の顔の写真はユニークな表現ではあるものの、標識に識別性を与える特別な要素や顕著な特徴ではなく、独自性と識別性は2つの異なる概念で、すべての顔がユニークであることは事実だが、だからといって、商品・役務の出所を示すものとみなすことはできないとの判断を示した。
審判部の裁定
EUIPO審判部は、2021年5月19日の裁定において、商標の識別性には特別な特徴や独自的な特徴を必要としないが、問題の標識は公衆が問題の役務を他の当事者の役務と区別できるものでなければならないとし、「写真は描かれているものを忠実に表現しているという単なる事実は、この表現が商標として機能しないことを意味しない」と説明した。
審判部は、固有の外見的特徴を有する特定の人物の顔の描写が、他の人物との区別の役割を果たすことに疑いの余地はないと考えた。このことは、顔の忠実な画像が数多く想像されるという事実を損なうものではない。瓜二つの他人の可能性があるかどうかにかかわらず、それぞれが独自の表現となり、瓜二つの他人の可能性について、審判部は、この議論はすべての商標出願でも当てはまると考えた。動物に関しても言葉、パターン、写真がどれだけ存在するか?この場合、関連する公衆は肖像画を役務の識別手段として認識し、それによって標識は商標の本質的な機能を果たすことになる。
以上の議論に基づき、審判請求は十分な根拠があると判断され、審判部はEUIPOの拒絶査定を取り消した。
EUにおける肖像権の正当性の証明?
写真画像が識別性の要件を満たすことができるという審判部の結論は、個人がEUにおいて自分の肖像を商標として保護し、それによって、許可なく使用した第三者に対して行動を起こす可能性を提供するものとなった。