カナダ知的財産庁(CIPO)は、審査時間を改善するための努力を続けており、商標権者が審査を迅速に受けるためのオプションを導入したが、それでも、カナダの商標出願は大幅な審査の遅延が続いており、現在CIPOは、以下の日付で提出された出願を審査している。
事前に認可された商品・サービス表を使用しない出願:2018年12月14日
事前に認可された商品・サービス表を使用した出願:2019年5月
マドリッド経由の国際出願:2020年5月28日
この遅延は、カナダが2019年6月に商標の国際登録のためのマドリッド制度に加盟したことに伴い、商標出願の出願数が予想を上回ったこと、および、CIPOが2019年7月に発効する新しい商標法に合わせて調整したことに起因している。これに新型コロナウイルスのパンデミックが重なったためのリソース不足により、遅延はさらに大きくなっている。CIPOは、高度な審査基準で実体的な理由と技術的な理由の両方で審査を行っているため、大量の出願に直面しても審査へのアプローチを妥協していない。例えば、CIPOの商品やサービスに対するアプローチは非常に特殊であり、CIPOの商標審査部にとって審査に時間がかかる。そのため、審査の迅速性を向上させるために以下のような対策を講じると発表した。
1. 審査官は、拒絶理由通知書で商品・サービスの補正案を少なくする。
2. 事前に認可された商品・サービス表から選択された商品・サービスを記述した出願はより迅速に審査される。
3. 審査官は、拒絶査定の前に特定の提出物や主張を一度だけ受け付けることで、拒絶前の作業を減らすことができる。
カナダで商標登録審査を迅速に行いたい商標出願人は、CIPOが事前に認可した商品・サービスのみを使用することが推奨され、結果として審査が迅速化される。事前に認可されていない商品・サービスの場合、指定する商品・サービスは通常の商業用語であるため、以下の3つの観点から審査される。
1. 商品・サービスが、商標に関連する商品・サービスの特徴や品質、生産状況、生産に従事する者、原産地をはっきりと記述していないか、あるいは欺瞞的に誤った記述をしていないかを評価できるような形式で記述されているか。明らかに商品・サービスの特徴や品質を表現している商標は登録できない。
2. 出願人が不合理に広い保護範囲を有しないように、指定する商品・サービスを特定しているか。例えば、「コンピュータ・ソフトウェア」と記述された商品は、更なる特定がなければ、出願人に不合理に広い保護範囲を与えることになる。
3. 商品・サービスは、誤認混同を評価できるような十分に具体的な方法で記述されているか?登録商標や出願中の商標と誤認混同するような商標は登録できない。商標や商号が誤認混同を生じるかどうかを評価する際に考慮される周囲の状況として、商品、サービス、ビジネスの特徴、取引の実情がある。
さらに、2021年5月3日、CIPOは、早期審査の申請制度を導入するための実務指針を発表した。この新しい実務では、商標出願の早期審査を申請することができる。早期審査の申請は、実務指針に記載された特定の要件を満たす宣誓書または法定申告書を提出する必要があり、迅速な審査を正当化するための以下の基準の1つ以上を明確に示さなくてはならない。
1. カナダで出願商標に関する訴訟が進行している又はその見込みがある。
2. 出願人が当該商標に関してカナダ国境で模倣品対策を行っている。
3. 出願人が、オンラインマーケットで多大な損害を被るになることから権利を保護するために、商標登録を必要としている。
4. 出願人が、外国の知的財産権庁からの要請に応じて、定められた期限内に優先権の主張を維持するために商標登録を必要としている(要請の添付が必要)。
早期審査の申請数、処理方法、登録までの審査期間などの情報は、まだ公表されていない。実務が進んでいることもあり、利用者から多くの質問が寄せられている。例えば、早期審査の対象となるオンラインマーケットの範囲や、求められる根拠について疑問が生じている。また、この規定は、オンラインマーケットにおける模倣品を対象にしていると考えられるが、「多大な損害」を示すために何が必要なのか不明瞭だ。同様に、この根拠が、例えばドメイン名やソーシャルメディア上の名前のスクワッティングにも及ぶかどうかも不明だ。また、「見込まれる」訴訟とは何を指すのか、どの時点で「見込まれる」訴訟になるのか、といった質問も寄せられている。そして、「優先権」主張の維持に関して、例えば、カナダの出願人がカナダでの商標登録に基づいて米国で優先権主張をするために、カナダでの審査を早める理由があるのかどうかも疑問だ。例えば、USPTO(米国特許商標庁)が、カナダの商標登録を回答する期限を設定したオフィスアクションがあった場合、期限延長が可能であったとしても、その「申請」は適格といえるだろうか。
以上、早期審査を申請する可能性のある状況の例を挙げてみた。これらの実務はまだ新しく、CIPOは通常ケースバイケースで問題を評価するため、実務がどのように展開するかに大きな関心が寄せられている。同様に、カナダの制度利用者は、カナダにおける商標審査の延滞を改善するためにCIPOが実施した措置の影響など広く監視している。
事前に認可された商品・サービス表は こちら
本文は こちら (Options to expedite trademark examination in Canada)