2021年10月13日の2つの判決(第19-20504号及び第19-20959号)で、フランスの最高裁に当たる破棄院の商事部(French commercial chamber of the Court of Cassation)は、標識の商標出願は、それ自体では侵害行為を構成しないと明確に判示した。以前からこの問題に対して統一された回答がなされていなかったが、これらの判決は特に重要であり、企業や商標権者に必要とされる大いなる明確性を与えるものである。
これらの判決が出される前の不透明な状況
商標の出願はそれ自体で侵害行為となるか?これまでにも何回か提起された問題に対して、フランスの裁判所からは統一された回答を得られなかった。実際、過去の判決では異なる2つの傾向が見られた。
フランスの一部の裁判所は、欧州の商標判例法の論法を適用し、「経済的利益を目的とした商業活動の過程における」標識の使用を示す取引過程での標識の使用がある場合にのみ侵害が認められるとした(2002 年 12/11, C-206/01, 「Arsenal Football Club」の判決)。そのため、単なる商標出願では侵害行為を構成するには不十分であるとした(パリ高等裁判所、2017/09/21、No.16/00723)。
しかし、破棄院とパリ控訴院は、いくつかの事例において、単なる商標出願による侵害があるとし、反対の立場を採っていた。破棄院は、抵触する商標の出願は、先の商標の所有者の排他的権利を侵害し、その結果、必然的に損害が発生すると判断し、侵害された標識の取引過程での使用は、侵害行為の立証には必要ないとした。(2003年11月26日判決、No.01-11.784; 2016年5月24日判決、No.14-17.533)。
したがって、このような状況は商標権者に法的不確実性をもたらし、これらの疑念に終止符を打つために、破棄院の明確な判決が必要であった。
破棄院の立場逆転、欧州連合の判例法の適用
同じ目的を持つ2021年10月13日の2つの判決で、破棄院はこれまでの判例を明確に覆した。同院は、自らの判例を引用しながら、これまでの法解釈では、単なる商標出願が侵害行為になりうると考えられていたことを確認した上で、この解釈は欧州連合司法裁判所の判例法に照らして再検討されるべきであると主張した。このように、破棄院は、欧州連合司法裁判所のDaimler判決(2016年03月03日判決、C-179/15)を明確に引用し、侵害行為を定義するための累積基準 (cumulative criteria)を定めた。
* 侵害する標識が取引の過程で使用されていなければならない
* 先の商標の所有者の同意がない
* 先の商標の所有者の同意がなく、先の商標が指定するものと同一または類似する商品・サービスで侵害する標識が取引過程で使用されている
* 標識の使用が公衆に混同を生じさせる虞があり、商標の本質的機能である出所表示機能が損なわれていなければならない
したがって、商標を出願しただけでは、その商標が登録されたかどうかにかかわらず、その標識を付した商品・サービスの商業化が開始されていなければ、侵害行為にはならない。実際、このような場合、公衆の間で混同が生じる虞はなく、商標の出所表示という本質的な機能に対する侵害は生じていないと考えられる。
商標権者の実務上の影響
商標の所有者が、侵害が疑われるが使用が明らかではない標識を第三者が商標出願したことが分かっても、商標権侵害を訴えることができなくなり、侵害訴訟は商標が使用されている場合にのみ可能となる。
そのため、侵害を疑う先の商標の所有者は、後の商標の使用が確認されていない場合、その商標の拒絶または取消を得るために、フランスの商標庁であるINPIに異議申立または無効請求を提起する必要がある。先行商標の所有者は、異議申立や無効審判の手続き(裁判よりも費用が安い)を通じて自らの権利を主張することを躊躇してはならず、商標出願人が商標の使用を開始するのを阻止する良い方法となる可能性がある。