2022-02-01

工藤莞司の注目裁判:役務「娯楽施設の提供」について商標「VEGAS」の識別力を否定しなかった事例

(令和3年12月20日 知財高裁令和3年(行ケ)第10079号 「VEGAS事件」、同旨令和3年(行ケ)第10078号 「ベガス事件」)

事案の概要 原告(請求人)は、被告(商標権者・被請求人)が有する「VEGAS」の欧文字を横書きして、41類に属する役務を指定した商標登録(第6080858号)に対し、商標法3条1項3号違反を理由として、指定役務中「娯楽施設の提供」について、登録無効審判(2019-890067)を請求した処、特許庁は不成立審決をしたため、原告は、知財高裁に対しその審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した事案である。

判 旨 そもそも「VEGAS」や「Vegas」の欧文字が、「ベガス」等の片仮名表記と併記されることなく、単体で「ラスベガス」を意味するものとして辞書や記事等に記載された例は見当たらない。このことから見ても、「VEGAS」の語が「ラスベガス」の略称として広く一般に知られているとは認め得ない。
本件証拠(引用者注・新聞記事)からは、ラスベガスの略称を意味するために「ベガス」の語を単独で用いることが我が国で定着しているとは認め難く、ましてや「VEGAS」の語がラスベガスの略称として広く一般に知られているとは認め得ない。
そして、役務が「娯楽施設の提供」である以上、国外の地であるラスベガスがその提供の場所を表すものとは、通常理解され難い。また、我が国では「ラスベガス」の語と賭博場のイメージとが観念上強固に結び付いているところ、「娯楽施設の提供」の役務の中には本来、「賭博場の提供」の役務は含まれないと解され、取引者・需要者は、「娯楽施設の提供」の役務との関係において「ベガス」の商標に接したとしても、ラスベガスを直ちに想起し、あるいは役務の質や内容がラスベガスに関連のあるものと理解するとはいえず、「ベガス」の商標は、自他役務の識別標識としての機能を果たし得ないとはいえないというべきであり、「娯楽施設の提供」の役務において、「ベガス」の語がラスベガスとの関連性を表示するとして取引上一般に用いられている事情を認めるに足りる証拠はない。そうすると、「娯楽施設の提供」の役務についてみても、「ベガス」の語が ラスベガスの略称として広く一般に知られていると認めることはできず、ましてや「VEGAS」の語がラスベガスの略称として広く一般に知られているとは認め難いから、本件商標は商標法3条1項3号の商標とはいえないというべきである。

コメント 本件事案「VEGAS」が「Las Vegas」、「ラスベガス」の略称で、指定役務「娯楽施設の提供」について商標「VEGAS」の識別力がないとの請求に対して、知財高裁も、識別力は否定し得ないとしたもので、結論は審決と同様である。辞書や新聞記事には採用例はあるが、わが国では、「Las Vegas」、「ラスベガス」の略称とは認識されないとした。証拠は提出されたが、一部辞書掲載事実イコール需要者の認識へとは結び付かないし、新聞記事は文字数との関係からの見出しでの略称のようで、妥当な認定であろう。役務が「娯楽施設の提供」である以上、国外地であるラスベガスがその提供の場所を表すものとは、通常理解され難いと明確に解釈している。商品とは異なり、役務の非流通性からである。