2022-05-02

工藤莞司の注目裁判:出願商標「睡眠コンサルタント」は指定役務について出所表示機能が否定された事例

(「睡眠コンサルタント事件」令和4年1月25日 知財高裁令和3年(行ケ)第10113号)

 事案の概要 原告(請求人・出願人)は、「睡眠コンサルタント」の文字からなる本願商標について、指定役務41類「技芸・スポーツ又は知識の教授、セミナーの企画・運営又は開催、電子出版物の提供、書籍の 制作、教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。)」とし登録出願をした処、拒絶査定を受けたので、拒絶査定不服審判を請求した(不服2020-7812)が、特許庁は商標法3条1項3号該当を理由とする不成立審決をしたため、知財高裁に対して審決の取消しを求めた事案である。

 判 旨 認定事実によれば、「睡眠コンサルタント」が、「睡眠の事柄について相談・助言・指導を行う専門家」の意味合いを容易に認識させることは明らかである。そして、認定事実によれば、「睡眠コンサ ルタント」と称する資格又は「睡眠コンサルタント」の文字を含む名称を冠する資格を与える団体が存在し、当該団体が睡眠に関する専門的な知識の教授等を行っている例が複数あること(略)、これらの団体により認定資格を得た者が「睡眠コンサルタント」と名乗り、睡眠に関する知識の教授、及び睡眠に関するセミナーの企画・運営又は開催を行っている例が複数あること(略)、それ以外にも、「睡眠コンサルタント」と称する者が、睡眠に関する知識の教授、及び睡眠に関するセミナーの企画・運営又は開催等を行っている例が複数あること(略)が認められる。また、当該業界において、講義及びセミナー等の内容に関する書籍(テキスト、問題集等)及びビデオ等が制作されている実情があることは、顕著な事実である。以上からすると、本願商標は、本願指定役務「技芸・スポーツ又は知識の教授、セミナーの企画・運営又は開催、電子出版物の提供、書籍の制作、教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用 のものを除く。)」との関係で、本件審決の時点において、「睡眠に関する専門的な知識を有する者による、睡眠に関する役務である」という役務の質を表示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であり、本願商標の取引者、需要者によって本願商標が本願指定役務 に使用された場合に、役務の質を表示したものと一般に認識されるから、本願商標は、本願指定役務について役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標と認めるのが相当である。

 コメント 知財高裁は、本願商標「睡眠コンサルタント」から生ずる意味合いから指定役務の質表示として、出所表示機能を否定した審決を支持したもので、「取引に際し必要適切な表示」としてワイキキ判例(昭和54年4月10日 最高裁昭和53年(行ツ)第129号 裁判集民事126号507頁)に沿う説示である。そして、指定役務に係る取引の実情からも裏付けている。原告側の主張では審決の認定、判断を覆すには足りないと思われる。過去の登録例を持ち出しているが、出所表示機能乃至は自他商品・役務識別機能の有無は、判断時点の査定又は審決時において、当該事案について個別具体的に判断されるものである。登録例に頼る事案では、審判、取消訴訟まで争うのは困難であろう。