異なる管轄区域で同じ製品を異なるブランド名で管理している企業は、商標ポートフォリオを調和させることによって時間とコストを節約することができると、Luke Portnowは解説する。
今日、ほとんどの企業が自社製品に同じブランド名をグローバルで使用することを望んでいるが、商標が世界各地でどの程度異なっているかは、いまだに驚きをもって受け止められることがある。古い「遺産」ブランドのポートフォリオを持つ企業は、歴史的なネーミングや商標保護戦略などで、同じ製品について複数の商標を保持していることも多い。また、異なる市場において、既存の第三者の権利によって同じブランド名をブロックされている場合もある。
なぜ商標を統一した方が良いのか?
特定の国や言語に合わせて異なるブランド名を選択することには利点もあるが、商標をグローバルに調和させることは、多くの長期的な利点をもたらす。例えば、商品のネーミングやブランディングを世界的に統一することで、グローバルなブランドアイデンティティと消費者ロイヤリティを強化できる。ビジネスがフランチャイズ方式で運営されているか、製造やマーケティングが直接的に管理されているかにかかわらず、入手する商品やサービスが同じ品質であることを消費者に保証することができる。
これまで異なるブランド名で取引されていた製品であっても、少しの先見性と計画性で調和のとれたアプローチに移行することが可能となり、このような移行を行った有名な例がユニリーバの子会社 Cifの清掃用品やマースの菓子「Snickers」と「Starburst」などである。どちらも1990年代後半から2000年代前半にかけて、世界のほとんどの市場で商品名を統一するためにリブランディングが行われた。
* Cifはもともと、ローカルなネーミングポリシーが当時のマーケティングトレンドであった1960年代にフランスで発売された。フランスとその他のヨーロッパ地域では「Cif」と呼ばれていたが、英国、豪州、ニュージーランド、そしてオランダでは、オランダ王室にちなんで(緑と白ではなく)オレンジと赤のパッケージとした「Jif」であった。数年後、ユニリーバは世界中で同じ製品に異なる商標を使用することをやめ、ブランドの統一を図ることにした。
* 同じ頃、マースは1990年代後半から2000年代前半にかけて、チョコレートバー「Snickers」(英国とアイルランドでは以前「Marathon」として販売)とチューイングキャンディ「Starburst」(英国とアイルランドでは以前「Opal Fruits」として販売)のブランドの調和を図った。
商標権侵害の回避
商標の統一は、すべてのビッグブランドにとって必須でもなければ、いつも可能というわけでもないが、これにはちゃんとした理由がある場合がほとんどだ。あるブランドがある市場で長年にわたって商標として使用してきたとしても、別の市場に進出したときにその商標を使えるとは限らない。その地域には、すでに同じ名前で販売されている製品があるかもしれないからだ。
競合する可能性のある商標(すなわち、商標権侵害の訴えを起こされるリスクのある商標)でブランドを立ち上げるよりも、新しく始める方が簡単でリスクも低いことだろう。つまり、全く異なる商標で立ち上げる一方で、オリジナルの確立された商標は元のホームグラウンドで存続させるということだ。
* アイルランドのファストファッションチェーン Penneysは、米国の小売業者 JCPenneyが他の場所で使用・所有している商標権と競合するため、アイルランド国外では「Primark」と呼ばれている。
* 米国を拠点とする大手ディスカウント・チェーンの TJ Maxxも、英国市場に参入する際、英国の老舗百貨店チェーンTJ Hughesとの混同を避けるために社名を「TK Maxx」に変更した。
* バーガーキングは豪州に進出する際、商標の問題に直面した。現在も「Hungry Jack’s」の商標で展開している。
* ユニリーバのデオドラントブランド「Axe」は、欧州の大部分、豪州、中国で「Lynx」として販売されているが、これは以前に商標権が競合したためだ。
* 地域によっては、「Vauxhall(英国)」、「Opel(欧州)」、「Holden(豪州)」の車種に乗っている人もいるだろう。
既存のブランドを新市場に展開する前に、商標のクリアランス調査を行うことが重要であることは言うまでもない。新しいブランドについても、他の地域でハイレベルなスクリーニングを行うことは、同様に大切で有益なことだ。これにより、同じ商標の下で将来的に新しい国へ進出する際に、先に登録された権利に阻止される可能性が明らかになるからだ。
地域に関する知識の重要性
ブランド名を選択する際には、地域に関する知識も重要だ。マースが米国で販売しているチョコレート「Dove」は、英国とアイルランドで「Galaxy」として販売されているが、これは「Dove」ブランドで販売されている石鹸や衛生用品を想起させないためと思われる。同様に、ケベック州では、ファーストフードのチキンブランド「KFC」を「PFK(Poulet Frit Kentucky)」と呼び、現地の言語(フランス語)に合わせている。
本国の言葉が通じない国では、商標がネガティブな意味合いを持たないことを確認するためだけでも、現地のマーケティング専門家を雇うことを勧めたい。例えば、「Irish Mist」という酒のブランドは、「Mist」がドイツ語で「堆肥」を意味すると指摘されるとおいしそうには感じられない。
また、ブランド所有者の多くは、商品に関連するならば、容易な市場の分割と地域の規制に対応するために、さまざまな商標を使用することも選択肢に入れている。
できなければ、他の方法を考える
異なる地域で同じ商品に複数の商標を使用しなければならない(喜んで使用する場合も含めて)ビッグブランドやブランドの所有会社が、IP保護を調和させ、世界的な消費者認識のメリットを活かすためにできることがある。例えば、ロゴと体裁(トレードドレス)は、品質と出所を示す非常に信頼性の高い指標となり得る。
例えば、Lay’s のポテトチップスのパッケージがそうである。商標は大きく異なるが(英国の「Walker’s」、イスラエルの「Tapuchips」、ブラジルの「Chipsy」、メキシコの「Sabritas」など)、パッケージがどこでも同じに見える。「Wall’s」アイスクリームも同様で、英国以外では「Ola」、「Frigo」、「Lusso」と呼ばれているが、すべて同じ螺旋状のハートのロゴで統一されている。
本文は こちら (Same product, different name: Should you harmonise your trademark portfolio?)