2022-09-22

工藤莞司の注目裁判:商標法53条の2の審判において代理人に該当し正当理由なしとした成立審決が支持された事例

(令和4年9月12日 知財高裁令和元年(行ケ)第10157号 「NUDE NAIL不正登録取消事件」審決取消請求事件)

事案の概要 原告(被請求人・商標権者)は、指定商品8類に係る本件商標「NUDE NAIL/glass nail shiner」(登録第5911020号 平成29年1月6日設定登録)の商標権者である。被告(請求人)は、平成30年4月12日(この審判請求は設定登録後5年以内に限られる。商標法53条の2第2項)、本件商標の登録に対し、韓国登録商標「NUDE NAIL/glass nail shiner」を引用して商標法53条の2の登録取消審判(2018-300215)を請求した処、特許庁は成立審決をしたため、原告が知財高裁へその取消しを求めた事案である。

判 旨 被告は、パリ条約の加盟国韓国において、引用商標に係る商標権をエスタッチ社と共有している。引用商標と本件商標を比較すると、いずれも、上段にアルファベット大文字で大きく「NUDE NAIL」と記載し、下段に小文字で 小さく「glass nail shiner」と記載するもので、両者は類似の商標であり、また、本件商標の指定商品と、引用商標の指定商品とは、同一又は類似の商品と認められる。
 商標法53条の2は、輸入者が権利者との間に存在する信頼関係に違背して、正当な理由がなく外国商標を勝手に出願して競争上有利に立とうとする弊害を除去し、商標の国際的保護を図る規定というべきで、ここにいう「代理人」に該当するか否かは、輸入者が「代理人」、「代理店」等の名称を有していたか否かの形式的な観点のみから判断するのではなく、商標法53条の2の適用の基礎となるべき取引上の密接な信頼関係が形成されていたかどうかという観点も含めて検討するのが相当である。
 そうすると、原告と被告の関係は、単発の商品購入にとどまるものではなく、継続的な取引関係の構築を前提とするもので、このことは、原告がわが国におけるエスタッチ社商標の使用権を取得しようとしたこと、さらには、本件商標の登録出願をしたこと自体からも裏付けられる。以上の事情を総合考慮すると、原告と被告の間には、本件期間内(登録出願前1年以内)に既に、代理人ないし代理店と同様の取引上の密接な信頼関係が形成されたと認めるのが相当であり、代理店契約の存否等にかかわらず、原告は、同条の2にいう「代理人」に該当する。
 原告の登録出願に「正当な理由」がないとした本件審決の判断に誤りはない。

コメント 本件裁判例は、商標法53条の2の不正登録取消審判の審決取消訴訟で、極めて稀なもので、成立審決を支持したものである。この審判は、パリ条約リスボン改正条約6条の7により、外国権利者に、代理人等による無断登録に対し取消請求を認めたもので、代理人等であること及び正当な理由の存否がポイントである。代理人については、委任関係の代理人よりは広く、本件では、取引上の密接な信頼関係の形成の観点から判断をして認めたもので、条約の趣旨に沿った解釈である。過去の裁判例では代理人を文言通りに解釈した例も散見される(拙著「商標法の解説と裁判例」改訂版378頁以下)。
 また、正当な理由の存否も、被告が本件商標を登録出願する意思がなかったとは言えない、被告が日本で引用商標の権利取得を放棄した、又は、取得する関心がないことに関し客観的な証拠はないとして正当理由なしとした審決を維持している。