2022-10-25

工藤莞司の注目裁判:不使用取消審判においてウェブサイト上の登録商標の使用が認められた事例

(令和4年9月28日 知財高裁令和4年(行ケ)第10038号 「China Tracker不使用取消事件」)

 事案の概要 原告(請求人)は、被告(被請求人・商標権者)が有する登録商標(登録第5328151号下掲参照)について、不使用登録取消審判の請求(2021-300094)をした処、 特許庁は被告の使用を認めて不成立審決をしたため、原告は、知財高裁に対し、本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した事案である。

 登録商標  W.I.S.E.-CSI 300 CHINA TRACKER    
 指定役務  36類「証券投資信託受益証券の募集・売出し、投資、金融資産の管理(以下略)」

 判 旨 ウェブサイトにおける使用 認定事実によれば、本件商標の通常使用権者楽天証券は、要証期間に日本国内において、請求に係る指定役務中、36類「証券投資信託受益 証券の募集・売出し」等に関する広告を内容とする情報に、本件商標と社会通念上同一商標である使用商標1「W.I.S.E.-CSI300 CHIN A TRACKER」を付して、自社のウェブサイト上で表示し、役務に関する広告を内容とする情報に標章を付して電磁的方法 (インターネット)により提供する行為(商標法2条3項8号)をしていたと認められる。
投資情報メディア「トウシル」における使用についても、前掲と同様に、本件商標と社会通念上同一の商標である使用商標1を付して、その運営する「トウシル」で表示し、役務に関する広告を電磁的方法(インターネット)により提供する行為(商標法2条3項8号)をしていたものと認められる。

 コメント 本件事案では、被告ウェブサイト上表示の役務「証券投資信託受益証券の募集・売出し」等について登録商標の使用が争われ、これが、電磁的方法(インターネット)により提供する行為(商標法2条3項8号)と認められて、同旨の審決が支持されたものである。

 原告の使用否定の以下の主張はいずれも斥けられた。
 ①使用権者楽天証券のウェブサイトから要証期間後出力した甲第3号証の存否について疑義を提起したが、裁判所は推認できるとした。存否の疑義については、傍証を含めて何らかの立証をすべきで、単なる主張では足りない。
 ②楽天証券との使用権について、書面によらない契約の締結は考えられない旨主張したが、個別の書面がなくても、通常使用権の許諾は優に推認できるとされた。取引上黙示の通常使用権の許諾は普通に行われている。
 ③使用権者楽天証券のウェブサイトは、「広告」には当たらない旨主張したが、同ウェブサイトは、需要者に本件投資信託の購入に必要な情報を提供して購入を促すものであり、「広告」に当たるとされた。
 ④被告提出の本件運用報告書上の使用は、商標的使用には当たらない旨主張したが、その表紙には管理会社として被告が表示され、使用商標2にはⓇも表示されていることに鑑みれば、使用商標2について、商標的使用の態様の使用ということができるとされた。
 ⑤被告提出の投資信託・投資法人法上作成義務のある運用報告書は、商標法2条3項8号の「取引書類」には当たらない旨主張したが、本件運用報告書は、ファンドの仕組み、 ファンドの運用の経過、ファンドの経理状況等、取引上の意思決定に資する情報が記載されて、取引に関連して作成書類としての性質を有するとされた。
 本件裁判例は、ウェブサイト上に表示された役務登録商標について、その使用の当否が争われた今日的な不使用取消審判の事例である。