2022-10-01

工藤莞司の注目裁判:元フランチャイジーの商標登録が商標法4条1項7号に該当し無効とした審決が支持された事例

(令和4年9月14日 知財高裁令和4年(行ケ)第10034号 「スマホ修理王事件」審決取消請求事件)

事案の概要 原告(被請求人・商標権者)は、本件商標「スマホ修理王」の標準文字の商標について、37類「電話機械器具の修理又は保守」を指定役務として登録出願をし登録(登録 第6174509号)を受けた。被告(請求人)は、商標法4条1項7号違反を理由として、本件商標について登録無効審判(2021-890027)を請求した処、 特許庁は成立審決をしたので、 原告はその審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した。

判 旨 事実経過等に鑑みれば、本件商標の登録出願は、元フランチャイジーである原告が、被告から本件契約解除をされた4日後に行ったものであり、これまでと同様の名称を使用することにより被告の顧客吸引力を利用し続けようとしたものと評価せざるを得ず、元フランチャイジーとして遵守すべき信義誠実の原則に大きく反するのみならず、「スマホ修理王」の名称でフランチャイズ事業を営んでいる被告がその名称に係る商標登録を経ていないことを奇貨として、被告によるフランチャイズ事業を妨害する加害目的又は本件商標を高額で被告に買い取らせる不当な目的で行われたというべきである。このような本件商標の登録出願の目的や経緯等に鑑みれば、本件商標の出願登録は、先願主義を悪用するものであり、社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠く事情があるというべきで、こうした商標の登録出願及び設定登録を許せば、商標を保護することにより商標の使用する者の業務上の信用を図り、もって産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする商標法の目的に反しかねないから、本件商標は、公の秩序に反するものというべきであって、商標法4条1項7号に該当する。

コメント 本件裁判例は、元フランチャイジーによる無断登録の事例に4条1項7号を適用し、審決を支持したものである。原被告間ではフランチャイズ契約の下で、フランチャイジーの原告は、「スマホ修理王」の名称を使用していたが、その契約解除直後に登録を受けた行為が商標法の目的に反するとして、4条1項7号違反とされたもので、すなわち、原告の無断登録には悪意や不正の目的があることからの同号の拡大解釈である。
 知財高裁は、4条1項19号が存在する現在は、『4条1項7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは、・・・特段の事情のある例外的な場合を除くほか、許されない。』(「コンマー(甲)事件」平成20年6月26日 知財高裁平成19年(行ケ)第10392号)として、無断登録に対する7号適用は制限的である。4条1項1号から同6号と公益規定が並び、7号はそれらの総括規定としての解釈である。
 しかし、本件では原告が、被告商標の顧客吸引力を利用し続けようとしたこと、元フランチャイジーとして遵守すべき信義誠実の原則に大きく反し、高額で被告に買い取らせるという不当な目的をもっての出願で、著しく社会的通念を欠く出願行為と認定、判断された。原告の高額買取要求が判断者の心証に影響を与えたと思われる。またフランチャイザーの商標未登録は頷けない。
 似たような裁判例として、「仙三七事件」(令和元年10月23日 知財高裁令和元年(行ケ)第10073号)がある。