2022-11-16

工藤莞司の注目裁判:称呼及び観念上同一も、外観上の顕著な相違から商標非類似との原告主張が否定された事例

(令和4年10月31日 知財高裁令和4年(行ケ)第10041号 「御守事件」)

 事案の概要 原告(審判請求人・出願人)は、下掲右図の構成からなり、35類、39類、41類及び43類に属する役務(補正後の役務)を指定して登録出願(商願2020-113205)したが拒絶査定を受けたため、 拒絶査定不服審判(2021-4816)の請求をした処、 特許庁は不成立審決をしたため、 原告は、審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した。拒絶理由は、商標法4条1項11号該当を理由とし、引用商標は、30類「菓子(甘栗・甘酒・氷砂糖・みつまめ・ゆであずきを除く。)、粉末あめ、水あめ、もち、パン」を指定した商標「お守(縦書き)」(登録第431494号)外3件である。

 判 旨 本願商標と引用商標とは、称呼及び観念を同一とし、両者の外観が異なるとしても、本願商標の外観は、本願商標及び引用商標から生じる観念及び称呼をそのまま体現した御守(護符)そのもので、その相違は称呼及び観念から生じる出所の認定を何ら左右しないから、両者は、役務又は商品の出所について誤認混同を生じさせるおそれのある類似の商標と認められる。
そして、本願商標の指定役務中の35類「菓子・パン・サンドイッチ・中華まんじゅう・ハンバーガー・ピザ・ホットドッグ・ミートパイ・・・及び穀物の加工品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」は、それらの対象商品「菓子・パン・サンドイッチ・中華まんじゅう・ハンバーガー・ピザ・ホットドッグ・ミートパイ・・・穀物の加工品」と引用商標の指定商品中30類「菓子(甘栗・甘酒・氷砂糖・みつまめ・ゆであずきを除く。)、 粉末あめ、水あめ、パン」とは類似するから、上記引用商標の指定商品と類似する役務と認められる。
 以上のとおり、本願商標は、引用商標に類似する商標であって、引用商標の指定商品に類似する役務について使用するものであるから、商標法4条1項11号に該当する。
 原告は、本願商標と引用商標の外観上の顕著な相違から看取できる印象は、称呼及び観念から看取できる印象を凌駕する旨主張する。しかしながら、本願図形部分である、「白色の二重叶結びの紐」は御守袋の特徴にほかならず、また、「ピンク色の花弁模様及び赤色の色彩」は御守袋を構成する地模様と認識されるのがせいぜいで、それらが単独で看者に強い印象を与えるものではない。本願商標から生じる「オマモリ」の称呼及び護符(御守)の観念が本願図形部分から看取できる印象に凌駕されることはない。

 コメント 本件事案では、本願商標と引用商標との類似判断において、原告は外観上の顕著な相違から非類似の主張をしたが否定されたものである。そして、外観上の顕著な相違は、称呼及び観念上からの類似を凌駕しないとの判断は正当で、本願商標は図形商標であるが、外観上もお守りを表したものとみられるからである。外観、称呼及び観念の一要素の類似にもかかわらず総合観察をして出所の混同のおそれはないとして非類似と判断した裁判例(「痛快事件」(平成13年12月12日 東京高裁平成13年(行ケ)第144号 )もあり、原告主張はこの先例に沿うものと思われるが、本件事案とは異なる(拙著「商標法の解説と裁判例」改訂版224頁以下参照)。
 本件事案では、審査乃至はせいぜい審判止まりで、無理筋な審決取消訴訟であろう。因みに、本願商標は分割出願で、もとの出願については、登録されている。