2023-01-10

工藤莞司の注目裁判:登録商標「守半」商標権行使の控訴審で、権利濫用を認めた原審判決を変更し一部認容した事例

登録商標「守半」商標権の行使において、商標「守半特選」等に対しては権利濫用と認め、同「守半總本舗」に対しては権利濫用とは認めなかった事例(令和4年11月30日 知財高裁令和2年(ネ)第10017号 商標権侵害差止等請求事件 原審・東京地裁平成30年(ワ)第11046号「守半事件」)

事案の概要 本事件は、登録商標(「守半」第1417322号商標 昭和55年 5月 30日登録)を有する控訴人(原告・商標権者)が、被控訴人(被告)に対して、被控訴人が「守半」の文字を含む被控訴人各標章を使用する行為は、商標法37条1項1号により本件商標権の侵害行為とみなされると主張して、被控訴人各標章の使用等の差止め及び損害賠償等を求めた事案である。原審は商標権の侵害を認めたが、被告に対する本件商標権に基づく原告の請求は権利の濫用に該当するとして。請求を棄却した。そこで、原告が知財高裁へ控訴した事案である。

要約判旨 侵害は成立 被控訴人の使用行為が本件商標権を侵害するかについては、原審判決引用し、これを認めた。原審は、使用商品は、本件商標権の指定商品と同一又は類似商品と認められる。登録商標「守半」と使用商標「守半粋の極み」、「守半特選」、「守半の海苔」、「海苔の老舗守半」はいずれも類似する。登録商標「守半」と使用商標「守半總本舗」も類似するとした。
 被控訴人の権利濫用の抗弁 「守半粋の極み」、「守半特選」、「守半の海苔」、「守半海苔の老舗蒲田」の使用に対しては、権利濫用を認めたが「守半總本舗」の使用に対しては、権利濫用を否定した。
 被控訴人の前身E(補助参加人)の個人事業の時代から、「守半海苔店蒲田支店」、「守半海苔店」といった屋号が使用されてきたこと、及び「粋の極み」、「特選」、「の海苔」、「海苔の老舗」、「蒲田」との文字は、のりなどの性状や品質、普通名称を表すか、「守半」を修飾する付加的なものとして取引者、需要者に認識されるもので、社会通念上、本件商標権の取得以前から Eや被控訴人による「守半」標章の使用の延長線上にある行為と評価できる。そうすると、・・・ それを認識しながら、長年にわたり本件商標権を行使しなかった控訴人が、本件商標権の取得以前から正当に行われてきた「守半」標章の使用行為と同一又は社会通念上同一といえる被控訴人標章「守半粋の極み」、「守半特選」、「守半の海苔」、「海苔の老舗守半」の使用行為に対し、本件商標権を行使することは、権利の濫用に該当する。
 被控訴人が、本件商標の登録以前から使用の「守半」標章とは社会通念上同一視できない「守半總本舗」を、平成18年から新たに商標権者・控訴人の承諾なく使用する被控訴人標章「守半總本舗」の使用行為に対して、控訴人が本件商標権を行使することは、権利濫用に該当しない。
 その他の抗弁 本件商標の登録に係る無効理由商標法4条1項7号該当性、4条1項10号該当性の抗弁のいずれも否定するとともに、被控訴人の先使用権の存在を否定した。
 
コメント 本件判決は、原審で権利濫用として商標権の侵害請求棄却事案に対する控訴審判決で、被控訴人使用商標中、「守半總本舗」については、権利濫用に当たらないとして、侵害請求を認めたものである。権利濫用の否定理由は、「守半總本舗」は本件商標権取得後の使用で、控訴人の承諾はなかったとしている。控訴人、補助参加人、被控訴人は海苔の生産地の近隣地域で長年営業を継続している中、「守半特選」等については、本件商標権取得以前からの使用は正当と評価されて、しかも登録後も権利不行使の事実、すなわち黙認状態の継続が考慮されたものである。権利濫用否定理由としては、稀有な例である。
 なお、原審、控訴審ともに「守半」と「守半總本舗」については、問題なく類似の商標とした。後者については屋号として一連の商標とし類否判断をする過去の審決例も見受けられる。