2023-01-25

知的財産から見た文化遺産の保護 - EUIPO

EUIPOは、知的財産の眼鏡を通した文化遺産の保護に関するエレオノーラ・ロサティ氏(Eleonora Rosati)の見解を公表した。ロサティ氏は、イタリアの弁護士資格を持ち、ストックホルム大学で知的財産法の正教授で、知的財産・市場法研究所所長、欧州知的財産法ロースクールの共同ディレクターなどを務めている。 

ロサティ氏によると、国際法や国内法を含むいくつかの法律が、文化遺産を保護するための手段を提供しており、国内法の例として、イタリアの文化財保護法(CHC:Cultural Heritage Code)がイタリアの国、地方、地域の当局が、自らが管理する文化遺産の利用を認可するか、認可しない場合、あるいは要請すらされていない場合に措置をとることによって規制するという一般原則を定めている。

イタリア政府がCHCを行使した(あるいは、おそれがあった)事例として、ミケランジェロのダビデ像がよろいかぶとに身を固めた姿で描かれたライフルの商業広告や、ダビデ像が描かれたフィレンツェの美術館の無許可チケットが挙げられ、最近では、フィレンツェのウフィツィ美術館に展示されている絵画の一部を「Classic Nudes」シリーズの一環として「ライブ」配信しようとしたアダルト・エンターテインメント・サイトに対してCHCが行使された。

知的財産法は文化遺産を保護するための様々な手段を提供している。
エッフェル塔についてEUIPOのデータベースで検索すると、パリ市がこの有名な塔に関連する商標登録に成功していることがわかる。さらに、著作権の保護期間が終了し、エッフェル塔そのものは保護されないが、夜になるとセーヌ川沿いをロマンティックに照らすエッフェル塔の照明は独自の著作権保護を享受している。

知的財産は、地域社会を支援するツールにもなっている。ケニア南部とタンザニア北部で伝統的に遊牧生活を営んできた民族マサイ族は、マサイ知的財産イニシアティブ・トラスト(MIPIT:Maasai Intellectual Property Initiative Trust)を立ち上げ、マサイの名称やイメージなどに関して商標をライセンスしている。MIPITの目標は、80%が貧困レベル以下で生活するコミュニティーの中でライセンス収入を再分配することにある。 

地理的表示(GI)も文化遺産を保護するための強力な知的財産権として位置づけられている。農産物に加えて、工芸品や工業製品をEUレベルでGIとして保護する法制度がまもなく導入されようとしている。2022年春、欧州委員会はこのような制度を導入するための立法案を発表し、欧州議会と理事会での議論が待たれている。この法案が採択されれば、「ムラーノグラス(Murano glass)」、「ゾーリンゲンのカトラリー(Solingen cutlery)」、「ドネガルツイード(Donegal tweed)」、「ハラスレース(Halas lace)」、「ヤブロネツ宝飾品(Gablonz jewellery)」などの製品名を保護するEU全体のメカニズムが提供されることになる。

また、知的財産制度が知的財産の保護と公共の利益との間に公正なバランスを確立しようと努めていることも忘れてはならない。このような理由から、EFTA 裁判所は、ノルウェーの芸術家グスタフ・ヴィーゲランが制作した一連の芸術作品を商標として登録しようとするオスロ市の試みを、とりわけ公共政策の観点から評価する観点から、このような芸術作品に適用される著作権の保護期間満了を回避するために商標法を利用すべきではないと警告している。 

最近では、美術館の所蔵品のデジタル化をめぐってドイツで起きた有名な紛争を受けて、EUは個々のEU諸国がパブリックドメインにある美術品の単純複製を著作権や関連する権利で保護することを禁止する法律を採択した。つまり、ほとんどの場合、EU全域の美術館やギャラリーは、所蔵する古い作品のデジタル化された画像をオンラインで利用する場合、著作権を表す「©」を使用する権利を得られない。

ロサティ氏は、ミケランジェロの最後の言葉が「Ancora imparo(私はまだ学んでいる)」であったことを引用し、文化遺産の保護のためのバランスのとれた法体系を作るには、絶え間ない努力が必要だと強調している。

本文(全文)は こちら (Cultural heritage through the IP lens)