2023-02-09

工藤莞司の注目裁判:商標法4条1項6号違反を理由に取り消すべきとした登録異議決定が取り消された事例

(令和4年12月26日 知財高裁令和4年(行ケ)第10067号 「オリンビアー事件」)

事案の概要 本件商標(第6323630号)「OLYMBEER/オリンビアー」、指定商品32類「ビール、清涼飲料、果実飲料、飲料用野菜ジ ュース、ビール製造用ホップエキス、乳性飲料」について、コミッティー インターナショナル オリンピックにより、 商標法4条1項7号、11号及び15号を理由に登録異議の申立て(2021-900067)がされた。商標「OLYMPIC」、同「OLYMPIAN」を引用商標とした。
 特許庁は、原告(商標権者)に、職権で商標法4条1項6号違反を理由に取り消すべき旨の取消理由を通知し、その後特許庁は、本商標の登録を取り消す旨の取消決定をした。そこで、原告は、知財高裁に対し本件取消決定の取消しを求めて本件訴訟を提起した。

判 旨 本件商標は、「OLYMBEER」の欧文字と「オリンビアー」の片仮名を2段に表示してなり、引用標章は、「OLYMPIAD」の欧文字又は「オリンピアード」の 片仮名である。引用標章は、関係者や識者等の間では著名なものと認められるが、それを超えて、本件商標の設定登録日において、商標法4条1項6号が規定する著名性を有する、すなわち本件商標の指定商品の取引者、需要者の間で広く認識されているものであると認めることについては、疑義も残るといわざるを得ず、少なくとも他の商標との類似性の判断において、著名性が高いことを前提にすることは相当でないというべきである。
 本件商標の指定商品の需要者と、引用標章が使用されるオリンピック競技大会に関心を有する者とは、一般的な消費者ないし国民であるという意味で共通性を有するが、前記・・・のとおり、本件商標と引用標章は外観及び称呼において相紛れるおそれがなく、観念において比較できないのであるから、両者は類似しないものというべきである。

コメント 4条1項6号裁判例は、審決を含めて稀な事例である。本件商標「OLYMBEER/オリンビアー」と引用標章「OLYMPIAD/オリンピアード」との類否判断で、審決とは逆の判断となり、結論が違った。本件裁判例の判断が妥当であろう。
 しかし、4条1項6号の趣旨について、「同号に掲げる団体等の公共性に鑑み、その信用を尊重するとともに、出所の混同を防いで取引者、需要者の利益を保護することに趣旨があり、・・・著名性は、同号所定の標章が、指定商品の取引者、需要者の間に広く認識されていることを要する」と解しているが疑問である。6号は公益的不登録事由であり(47条1項)、出所の混同は、商品又は役務に係るものであり、そのような規定にはなっていない。著名性も、需要者の間に広く認識されていることとしたが、10号等とは規定の趣旨が明らかに異なる。因みに8号にも「著名」があるが、最高裁は「本人を指し示すものとして一般的に受け入れられているか」(「国際自由学園事件」平成17年7月22日 最高裁同16年(行ヒ)第343号 判例時報1908号343頁)として、周知著名商標とは画して解している。