2023-02-16

工藤莞司の注目裁判:指定商品鉛筆に係る色彩のみからなる商標の登録性が否定された事例

(令和5年1月24日 知財高裁令和4年(行ケ)第10062号 「ごく暗い赤の鉛筆事件」)

事案の概要 原告(請求人・出願人)は、本願商標(右掲図参照)について、商標の詳細な説明を『商標は「DICカラーガイドPART2(第4版)2251」 のみからなる。』とし、指定商品を16類「鉛筆(色鉛筆を除く。)」(補正後)として、登録出願をしたところ、拒絶査定を受け、拒絶査定不服審判を請求(2019-13864)したが、 特許庁は不成立審決をしたため、原告は、知財高裁に対し審決取消しを求めて、本件訴えを提起した。拒絶理由は、本願商標は商標法3条1項3号に該当し、かつ、同条2項規定の商標に該当しないとした。

判 旨 (3条1項3号について)一般に、商取引においては、商品の外装等の商品又は役務に関して付される色彩は、商品又は役務のイメージ、美感等を高めるために多種多様なものの中から選択されて付されるものにすぎないから、付された色彩が直ちに商品又は役務の出所を表示する機能を有するというものではない。現に、取引の実情をみても、・・・本願商標の近似色は、指定商品鉛筆を含む筆記用具に関して、広く使用されている。
 本願商標は、指定商品鉛筆(色鉛筆を除く。)について使用される場合であっても、本願商標に接した需用者及び取引者をして、本願商標に係る色彩が単に商品(鉛筆)のイメージ、美感等を高めるために使用されていると認識させるにすぎないと認めるのが相当である。そうすると、本願商標は、指定商品鉛筆の特徴(鉛筆の外装色等の色彩)を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるから、本願商標は、3条1項3号に掲げる商標に該当する。
(3条2項について)本件アンケート調査によると、本願商標のみを見てどのような鉛筆のブランドを思い浮かべたかとの質問に対し、原告の名称やそのブランド名(三菱鉛筆、uni等)を想起して回答した者が全体の半分にも満たなかったことからすると、本願商標のみから原告やユニシリーズを想起する需用者は、比較的鉛筆に親しんでいる者に限ってみても、それほど多くないといわざるを得ない。以上によると、本件指定商品に係る需用者の間において、単一の色彩のみからなる本願商標のみをもって、これを原告に係る出所識別標識として認識するに至っていると認めることはできない。

コメント 本件判決では、色彩のみからなる商標の識別力の有無が争われ、使用による獲得をも含めて否定されたものである。本願商標は単色の色彩のみからなるもので、審決も本件判決も、いずれも識別力なしと判断している。また、原告のアンケート調査結果でも、原告商品と認識する者が50%に満たないというのであるから、色彩に対する需要者の認識実態が反映し、そして単色の色彩のみからなる商標の宿命だろう。更に単色の色彩のみからなる商標の登録については、独占適応性の点からも登録は不適とされた。
 単色の色彩のみからなる商標については、「橙色事件」(令和2年3月11日 知財高裁令和元年(行ケ)第10119号 、「オレンジ色油圧ショベル事件」(令和2年6月23日 知財高裁令和元年(行ケ)第10147号、令和2年8月19日 知財高裁令和元年(行ケ)第10146号)と同旨の判決が続いている。平成26年の登録導入時から、単色の色彩のみからなる商標の登録は困難で、あるとすれば使用による識別力の獲得の場合だろうが、これも至難だろうと考えていたが、そのような判決となっている。