2023-02-20

工藤莞司の注目裁判:称呼認定の誤りから商標の類否判断の結論が違った事例

(令和5年1月17日 知財高裁令和4年(行ケ)第10078号 審決取消し「アロウ―ゼ事件」)

事案の概要 原告(請求人)は、 被告(被請求人・商標権者)が有する3類等に係る登録第6310297号商標(右上掲図)に対し、3類等に係る登録第4865806号商標(引用商標2右下掲図参照)外5件を引用して商標法4条1項10号、11号、15号及び19号を理由として登録無効審判の請求(2021-890060)をしたところ、特許庁は不成立審決をしたため、知財高裁に対して、審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した事案である。


判 旨 本件商標は、一般には「アロウゼ」又は「アラウゼ」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。引用商標2-4は、「アロウジェ」若しくは「アロウゲ」又は「アラウジェ」若しくは「アラウゲ」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。前記・・・のとおり、本件商標と引用商標2-4の要部の称呼を対比すると、本件商標が「アロウゼ」と、引用商標2-4が「アロウジェ」 と称呼される場合や、本件商標が「アラウゼ」と、引用商標2-4が「アラウジェ」と称呼される場合があり得る。「ゼ」と「ジェ」はいずれもサ行濁音で母音「e」を共通にするため、両商標を時と所を異にして全体として一連に称呼するときは、相似た語韻・語調となり、明確には聴別することができず、称呼において酷似するといえる。以上からすると、本件商標と引用商標2-4の要部は、観念において 比較することができず、外観において見誤ることも少なくないと想定され、さらに、称呼において酷似するものであるところ、引用商標2-4は、出所識別機能を有しない図形部分が加わっているにすぎないもので、全体としても要部が与える印象を覆すものではない。
 そうすると、本件商標を引用商標2-4の指定商品に使用した場合には出所を混同させるおそれがあり、両商標は、相紛れるおそれのある類似の商標というべきである。したがって、本件商標が商標法4条1項11号に該当しないとした本件審決の判断には、誤りがある。

コメント
 本件判決では、本件商標と引用商標2-4は称呼上類似のものと判断した。その中で、審決の引用商標2-4の称呼認定を誤りとし別途認定した。審決は、引用商標1、同5中の「アルージェ」の文字から、同2-4の「Arouge」よりは「アルージェ」称呼を生じると認定してしまったが、安易であった。また、本件判決では、外観上の類似性にも言及している。
 このため、本件商標と引用商標2-4は類似するとして4条1項11号該当と判断して、審決取消しへと繋がった。
 引用各商標はそれぞれ取引上の使用に従い独自に外観、称呼及び観念が生ずるものであり、それぞれ個別に認定されるべきである。これらの商標が一の商品や役務に二以上商標が併用されることは先ずはない。