2023-02-13

米国: NFT「メタバーキン」を巡る商標権侵害訴訟でエルメスが勝訴 - Marks & Clerk

 NFT(Non Fungible Token:非代替性トークン)の「メタバーキン」に関して、高級ブランドのエルメス(HERMÈS)がアーティストのメイソン・ロスチャイルド(Mason Rothschild、以下「ロスチャイルド」)を相手取った米国での商標権侵害訴訟の一審でエルメスが勝訴した。この画期的な判決により、商標権者は第三者がNFTに関連して争いの種になるブランドを使用することを防ぐことができ、デジタル世界での商標保護と権利行使に安心感を与えることができるようになった。この事件は、アーティストやその他の関係者が、仮想空間で作品を販売するために紛争となりえるブランド名を使用することへの警告となるものだ。この点について解説する。

判決の概要
 この訴訟は、ロスチャイルドがエルメスの有名な「バーキン」バッグを基にしたデジタルのバッグデザイン「メタバーキン」商標の使用に対して起こされたものである。

 判決で、「メタバーキン(MetaBirkin)」商標をこのように使用することは、「バーキン(Birkin)」商標におけるエルメスの権利を侵害すると結論づけられた。NFTは「保護される芸術作品」には当たらないとされ、依ってエルメスの商標権を侵害すると判断された。

  エルメスは、まだ自社のNFTを提供していないものの、その計画は存在しており、ロスチャイルドが「メタバーキン」を使用することで、ロスチャイルドのNFTの出所について消費者が混同する虞があり、「メタバーキン」ブランドの使用は「バーキン」ブランドの評判と独占権を損なうため、この分野へのエルメスの進出が阻害されると主張した。
 それに対する反論は、ロスチャイルドにはNFTに紐づけられた美術品を販売する権利があり、その意味で「メタバーキン」の使用は侵害ではないというものであった。

 裁判所そして最終的に陪審員には、米国商標法に適用されるいわゆる「ロジャーズ・テスト」に基づく検討が求められた。「ロジャーズ・テスト」によれば、商標が芸術作品と関連性がない場合や作品の出所や内容に関して明示的に誤解を与える場合は、同一または類似する商標の無許可使用を防ぐために商標保護が適応されることになる。

 そのための重要な問題は、消費者がその作品をどのように認識するかであり、エルメスの主張は、「メタバーキン」と「バーキン」ブランドの出所で消費者が混同することを示す調査結果などの様々な証拠に裏付けられるものだった。

 この事件で陪審員は、商品の出所について消費者に誤解を与えており、作品を販売するために関連する「メタバーキン」ドメイン名を使用することによるロスチャイルドの行為は「サイバースクワッティング」であるとして、「ロジャース・テスト」の要件を満たしているとの判断を示した。

判決の意味
 判決は、ブランドオーナーが現実世界と仮想世界の間の曖昧な境界線を行き来する際に役立つものと思われ、アーティストが作品を販売する方法にも影響を与えるものだ。この事件は、知的財産権が現実世界と同様に仮想世界にも適用され、権利行使されるべきであり、評価の際は同じ基準(混同の虞や評判など)が適用されるべきであることを示唆している。

 ここで重要なのは、作品を販売する際に使用される「メタバーキン」というブランドに対する消費者の認識である。多くのファッションブランドが仮想空間上で自社ブランド商品のNFTを積極的に提供しており、消費者が紛らわしいブランド名で販売されるNFTがブランドオーナーの商品だと期待すれば、このような混同の虞を高めることになる。

 そのため、ギャラリーなどで制作・展示される伝統的なアートの場合とは異なり、アーティストとブランドが、同一または類似するブランド名でNFTを販売することで競争相手と見なされる可能性があり、これが主な判決理由となった。

 この事件によって話題となったアーティストにとって明らかに考慮すべき重要な点がある。しかし、この判決は、創作された芸術というよりも、消費者に向けてブランド化され「パッケージ化」された方法に関係することを忘れてはならない。

 この事件における重要な要因は、作品にバーキンのハンドバッグの画像や描写が使用されてたことだけでなく、それが「メタバーキン」と呼ばれ、その作品を販売するために「メタバーキン」を使ったドメインネームが登録されていたことであった。エスメスが証拠とした、自身のNFTプロジェクトを「金鉱(goldmine)」と呼ぶロスチャイルドのテキストメッセージや、バーキンのブランド名に対するエルメスの価値が、作品の販売による関心と収益をもたらしたことを示す証拠などを含め、これらの複合要因が、侵害を認定する鍵となったのである。

 これは、芸術作品とブランドを切り離して考えることの難しさを示す事例ではあるが、アーティストがブランドを用いて作品を販売するときには注意を払う必要である。

これからの話
 ロスチャイルドは、この判決を不服として控訴する意向を示している。そのため、この話はこれで終わったわけではないだろう。今後陪審員ではなく専門の裁判官によって異なる判決が出されるかどうかが注目される。

 一方、ブランド所有者は、仮想空間に関して自社の商標が確実に保護されることに価値を見出すだろう。NFTやバーチャルグッズに関連する商標保護を獲得することには「先行者利益」があり、今回の判決は、将来的にブランド所有者が取るべき同様の権利行使に火をつけることになるかもしれない。

本文は こちら (US court decision rules that use of “MetaBirkin” in relation to NFTs infringes trade mark rights in “Birkin” – Hermès v Mason Rothschild)