2023-03-07

工藤莞司の注目裁判:指定役務との関係から要部観察が行われ類似商標と判断された事例

(令和5年1月17日 知財高裁令和4年(行ケ)第10087号 「EMPIRE STEAK HOUSE」事件)

事案の概要 原告(請求人・出願人)は、別掲構成(右図参照)からなり、43類に属する飲食物の提供等の役務を指定し登録出願をしたが拒絶査定を受けて拒絶査定不服審判(2021-7251)の請求をした処、特許庁は不成立審決をしたため、知財高裁に対し、審決取消しを求めて本件訴訟を提起した。審決の拒絶理由は、商標法4条1項11号違反で、引用商標は指定役務43類に係る商標「EMPIRE」(登録第5848647)である。

判 旨 本願商標の構成中の牛の図形部分は、指定役務中「ステーキ料理の提供」との関係においては、提供料理の食材が牛であるという印象を与えるにすぎないといえ、実際の取引においても、ステーキハウスを含む牛肉等に関連した料理の提供店舗において、食材牛の全身又は一部をモチーフとした図形を用いる例が見受けられ(証拠略)、広く一般的に行われている。したがって、前記牛の図形部分は、本願商標の指定役務中、「ステーキ料理の提供」との関係において、自他役務識別機能を有しないか又は極めて弱いものである。
 本願商標は、「EMPIRE」の文字部分が外観上目立つものではないにしても、取引者及び需要者に対して自他役務の識別標識として強く支配的な印象を与えるといえるから、本願商標より「EMPIRE」の文字部分を商標の要部として抽出し、これと引用商標とを比較して商標の類否を判断することが相当というべきである。そうすると、本願商標は、要部の「EMPIRE」に相応して、「エンパイア」の称呼及び「帝国」の観念が生じるものというべきである。
 本願商標の要部「EMPIRE」の文字部分と引用商標とを比較すると、 両者は、いずれも普通に用いられる書体で、「EMPIRE」と表してなるもので、外観において紛らわしく、称呼(「エンパイア」)及び観念(「帝国」)は同一であることから、外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛らわしく、 互いに類似するというべきである。したがって、本願商標全体の外観と引用商標の外観が相違することを考慮しても、両商標は、同一又は類似の役務に使用された場合には、当該役務の出所について混同を生じるおそれがある類似の商標と判断すべきである。

コメント 本件判決では、商標の類否判断の中で、本願商標についての要部観察の是非が争われて、指定役務との関係から要部観察が行われ、引用商標と類似の商標と判断されたもので、審決と同旨である。全体観察が基本ではあるが、商標が自他商品・役務識別標識との観点から、一部にその機能があるときは、要部観察が行われて、そこより生ずる称呼、観念等が類否判断の対象となることは、取引の実情に沿うもので、審査、審判でも採用されている。
 役務「ステーキ料理の提供」については、本願商標「牛の図/EMPIRE STEAK HOUSE」中の「EMPIRE」が要部(「セイコーアイ事件」判例では支配的印象を与える部分(最高裁平成3年(行ツ)第103号 平成5年9月10日 民集47巻7号5009頁))として機能することは明らかである。
 過去にほぼ同一事例の裁判例がある(令和元年12月26日 知財高裁令和元年(行ケ)第10104号 審決取消請求事件)。