2023-04-03

工藤莞司の注目裁判:侵害訴訟において商標権の行使が権利濫用とされた事例

(令和4年8月30日 東京地裁令和3年(ワ)第2722号 丸忠商標権侵害事件 控訴棄却令和5年3月6日 知財高裁令和4年(ネ)第10091号)

事案の概要 原告は、登録第4093956号(右図参照)の商標権及び登録第5041731号商標権を有する処、被告による被告各標章の使用は、原告各商標権を侵害すると主張して、被告に対して、使用の差止と損害賠償を求めた事案である。

判 旨 原告の被告に対する本件各商標権に基づく各請求は、被告に関係する者であるaが設立した原告が、被告の創業者であるcから続く事業すなわち被告の事業を承継するためと主張して、被告が長年にわたり事業に使用してきたことにより一定の信用が蓄積された標章に類似する商標について登録出願をして(原告が、当時、これらの商標を各指定商品又は各指定役務について使用していたことは認めるに足りない。)、被告に対し、被告が上記の標章の使用の一環として使用するようになった各被告標章を使用しないこと等を求めるものであって、被告による標章の使用の状況、原告と被告との関係、原告の登録出願に至る経緯等に照らせば、仮に被告が本件各商標の指定役務に類似する役務に本件各商標に類似する各被告標章を使用するものとしても、権利の濫用に当たると認められる。したがって、原告の被告に対する本件各商標権に基づく各請求は、権利濫用であって認められない。

コメント 本件は、原告による被告に対する商標権の行使は、権利濫用として許されないとされたものである。控訴審の知財高裁でも支持された。原被告共に同じ創業者から事業を引き継いでいる親族間の争いで、先に商標権を取得した原告がしかも不使用であるのに対し、被告使用商標には一定の信用が蓄積されたもので、裁判所は、これらの経緯事情を踏まえて、被告の権利濫用の抗弁を認めたものである。近接地で競業する業者に対して、使用予定も不明な登録商標を取得して抑え込もうとの権利行使の態様で、妥当な判断であろう。
商標法上の管理としては、使用商標については、早期の商標権取得、そして親族間でも、文書を交わしてこのような紛争の予防が望まれる。