2023-04-10

工藤莞司の注目裁判:外観上類似とされた図形商標の事例

(令和5年2月22日 知財高裁令和4年(行ケ)第10095号 X型十字形状図形事件)

事案の概要 原告(請求人・出願人)は、指定商品25類 「スニーカー、その他の履物、運動用特殊靴」とした本願商標(左掲図参照)について、商標法4条1項11号に該当するとして拒絶査定を受け査定不服審判服(2022-1947)を請求した処、特許庁は不成立審決をしたため、知財高裁に対し審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した事案である。

 引用商標1(右掲図・登録第4616840号)は指定商品25類「被服、ガーター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベルト、履物、 仮装用衣服、運動用特殊靴、運動用特殊衣服」、引用商標2は登録第5348806号(略)である。

判 旨 本願商標と各引用商標の外観とを比較すると、いずれも「X」型の十字が左側(反時計回り方向)に傾いた形で組み合わされた2本の帯の図形からなり、帯の輪郭線のうち、短辺が直線、長辺が鋸歯状に表されている点、及び「X」型の十字の交点から右下に伸びる部分が左上に伸びる部分よりも長くなっている点において共通し、全体として、輪郭線のほとんどが鋸歯状になった、右下に伸びる帯が左上に伸びる帯より長い「X」型の十字形状といった印象を与え、そのような漠然とした印象によって需要者に記憶されるという点において共通する。
 本願商標は、外観においては、全体として、輪郭線のほとんどが鋸歯状になった、右下に伸びる帯が左上に伸びる帯より長い「X」型の十字形状といった印象を与え、そのような漠然とした印象によって需要者に記憶されるといえる。そして、本願商標は、特定の文字又は事物を表しているとは 直ちに認識できないから、これより特定の称呼及び観念は生じない。他方、引用商標1及び引用商標2は、いずれも「X」型の十字形状ではあるが、・・・これより特定の称呼及び観念が生じるとは認められない。そうすると、本願商標と各引用商標は、称呼及び観念において比較できないが、外観において類似しているから、それによって需要者、取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、本願商標と各引用商標は、これらを同一又は類似の商品について使用するときは、その商品の出所について誤認混同を生じるおそれがあり、類似する商標と認められる。

コメント 本件事案では、外観上の類否が争われて、類似と判断された事例で、審決と同旨である。両商標の構成上の共通性から印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察されたもので、離隔観察で、正当な判断である。
 特許庁の商標情報における商標出願・登録情報の図形分類コードや称呼欄の記載は、検索のための参考情報にとどまることは、今回も知財高裁で確認されている。
 因みに、商標の類否判断に当たり考慮される取引の実情とは、その指定商品全般についての一般的、恒常的なそれを指し、単に当該商標が現在使用されている商品についてのみの特殊的、限定的なそれを指すものではない(「保土谷化学社標事件」昭和47年(行ツ)第33号 最高裁昭和49年4月25日 審決取消訴訟判決集昭和49年443頁)として、原告主張が斥けられている。商標審査基準でも言及されている(改定15版78頁)。