2023-05-01

工藤莞司の注目裁判:称呼同一でも外観、観念の違いから非類似と判断された事例(「朔北カレー」事件)

(令和5年3月9日 知財高裁令和4年(行ケ)第10122号 「朔北カレー」事件)

事案の概要 原告(請求人・出願人)は、本願商標「朔北カレー」について29類「レトルトパウチされた調理済みカレー、カレーのもと、即席カレー、カレーを使用してなる肉製品、カレーを使用してなる加工水産物、カレーを使用してなる加工野菜及び加工果実、カレーを使用してなるなめ物」を指定して登録出願をした処、拒絶査定を受け査定不服審判(2021-16353)の請求をしたが、特許庁は不成立の審決をしたため、知財高裁に対し審決の取消を求めた事案である。拒絶理由は、商標法4条1項11号で、引用商標(登録第5787174号)は、「サクホク」(標準文字)からなり、29類「カレー・シチュー又はスープのもと、レトルトパウチされたカレー・シチュー・みそ汁・スープ、豆」等を指定したものである。

判 旨 本願要部は「朔北」という2文字の漢字からなるのに対し、引用商標は「サクホク」の4文字の片仮名からなり、外観が明らかに異なる。本願要部の称呼は「さくほく」であり、引用商標の称呼も「さくほく」であるから、同一である。本願要部からは「北の方角」「北方の地」の観念を生じるのに対し、「サクホク」は、辞書等に掲載されていない造語であって、特定の観念を生じないから、観念が明らかに異なる。
 本願要部と引用商標は、称呼が共通するものの、外観及び観念は明確に異なっているところ、需要者、取引者が「朔北」から引用商標である「サクホク」や引用商標の権利者を想起するというような取引の実情はなく、また、本願商標及び引用商標の指定商品において、需要者、取引者が、専ら商品の称呼のみによって商品を識別し、商品の出所を判別するような実情があるとは認められず、称呼による識別性が、外観及び観念による識別性を上回るとはいえないから、本願商標及び引用商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるとはいえない。そうすると、本願商標が引用商標に類似するとはいえない。

コメント 本件事案は、文字商標の類否判断において、審決と判決とで結論が180度違い、本件判決は審決を覆し非類似と判断したものである。本件判決は、本願商標(要部)と引用両商標は称呼では同一だが外観、観念が異なり、称呼による識別性が外観及び観念による識別性を上回るとはいえないとした。これに対し、審決は称呼による共通性を外観及び観念による識別性が凌駕することはないとしていた。
 商標の類否判断は、商標が取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して考察すべきものである。本願商標も引用商標も、漢字と片仮名文字の違いがあるとしても、外観上特別な印象を与えるものではなく、本件判決では、外観の違いを強調しているが過大評価で、非類似の判断は疑問が生じる。
因みに口頭取引や電話取引は一昔前の取引の実情であろうか。