2023-06-12

工藤莞司の注目裁判:結合商標においてその一部が要部として類似商標と判断された事例

(令和5年5月18日 知財高裁令和4年(行ケ)第10119号 「CLEAR事件」)

事案の概要 原告(審判請求人・出願人)は、本願商標(右掲参照)について、3類「せっけん類、歯磨き、化粧品、香料及び薫料、つけづめ、つけまつ毛」他(補正後のもの)を指定して登録出願をした処拒絶査定を受けて、拒絶査定不服審判(2022-5164)の請求をしたが、特許庁は不成立審決をしたため、知財高裁に対しその取消しを求めて、本件訴えを提起した事案である。拒絶理由は商標法4条1項11号該当で、引用商標30は、商標「CLEAR(標準文字)」(登録第6104148号)、指定商品3類「頭髪用化粧品、シャンプー、コンディショナー、ヘアートニック、ヘアローション、髪用トリートメント、ヘアマスク」である。

判 旨 本願商標の構成中の「CLEAR」の語は、「明快な」、「明晰な」、「澄んだ」などを意味する形容詞等であり、我が国においてよく親しまれた平易な英単語と認められる。そして、「CLEAR」の語は、本願商標の指定商品又は指定役務との関係で、商品の産地、販売地、品質等や役務の提供の場所、質等を具体的に表示するものではないから、本願商標の「CLEAR」の文字部分は、取引者及び需要者に対して強い訴求力を有するということができる。以上に加え、当該文字部分が「GINZA」の文字部分より大きく表されていることも併せ考慮すると、「CLEAR」の文字部分は、商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる。商標において商品又は役務の出所識別標識として機能する文字部分は、必ずしも造語、特別印象的な意味を有する語、特徴的な振る舞いをする文字からなる語等でなければならないことはない。
 以上のとおり、本願商標の本件図形部分及び「GINZA」の文字部分からは、出所識別標識としての称呼及び観念が生じず、また、本件図形部分とその余の部分は、それぞれが視覚上分離、独立した印象を与えるところ、両者を不可分一体に観察すべきとする取引の実情があると認めるに足りる証拠はないから、本願商標については、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとは認められない。したがって、本願商標については、その構成中の「CLEAR」の文字部分を抽出し、当該文字部分だけを他の商標と比較して商標の類否を判断することも許されるというべきである。

コメント 本件事案においては、本願商標について、要部乃至は分離観察の是非が争われて、知財高裁はこれを認めて引用商標とは類似の商標と判断し、審決を維持したものである。すなわち、本願商標は、前掲の通りの構成の結合商標である処、これより「CLEAR」が支配的な部分で識別力が強く、要部として抽出することは可能と判断したもので、「セイコーアイ事件」判例(平成5年9月10日 最高裁判所同3年(行ツ)第103号 民集47巻7号5009頁)に従ったものである。他の構成部分との比較において相対的に識別力が強ければ、支配的部分、要部と認定される。必ずしも造語や特異な語である必要はない。