(令和5年5月22日 知財高裁令和4年(行ケ)第10065号 「五輪事件」)
事案の概要 原告ら(請求人)は、被告(被請求人・商標権者「国際オリンピック委員会」。英語表記の略称「IOC」)は、スイス国法律下組織のスイス法人)が有する「五輪」の標準文字を書した本件商標 (登録第6118624号)について、指定役務中「教育・文 化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。)、スポーツの興行の企画・運営又は開催、スポーツの興行の企画・運営又は開催に関する情報の提供、スポーツ競技結果の情報提供等」41類全指定役務の登録に対し、商標法3条1項柱書き、同2号、同4条1項6号、同7号及び同10号違反を理由として登録無効審判(2021- 890047)を請求した処、特許庁は不成立審決をしたため、知財高裁に対し、その取消しを求めた事案である。
判 旨 取消理由3条1項柱書きについて、被告は、「五輪」の俗称でも親しまれているオリンピック競技大会の主催者であって、本件商標の査定時において、オリンピック競技大会を指称する「五輪」の語を使用する意思を有していたものと認められるから、本件商標は、被告との関係において、「自己の業務に係る役務について使用をする商標」に該当することが認められる。
同3条1項2号該当性について、「五輪」の語は、被告の主催するオリンピック競技大会の俗称として著名であって、被告の役務の出所識別標識としての機能を有することが認められることに照らすと、本件商標は、事業者間において慣用された結果、出所表示機能を喪失するに至ったものと認めることはできない。
同4条1項6号について、原告らの主張は、本件商標が商標法4条1項6号に該当しない旨の主張であって、本件商標が同号に該当しない商標であるとすれば、本件商標について同号が適用されないとした本件審決の結論に影響を及ぼすもといえないから、原告らの上記主張は、この点において主張自体理由がない。(引用者注 審決は4条2項で適用除外と解釈)
同4条1項7号該当性について、本件において、「五輪」の語が、誰でも自由に使用できる「公有」ともいうべき状態となっていることを認めるに足りる証拠はない。また、被告が本件商標についてその査定時までに違法ライセンス活動を大々的に行っていたことを認めるに足りる証拠はない。したがって、原告らの取消事由は、その前提を欠くものである。
同4条1項10号該当性について、原告ら主張の引用商標が、本件請求役務との関係において、他人の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標であるものであることを認めることはできない。
コメント 本件事案は、IOCが登録した商標「五輪」に対する無効審判の不成立審決の取消訴訟であるが、無効理由のすべてが否定され審決が支持された事例である。知財高裁は、IOCは、国際的非政府非営利団体で、オリンピック競技大会を運営・統括し、平和でよりよい世界の実現に貢献するオリンピックの理念オリンピック憲章に従い、オリンピズムを普及させる役割を担っていること、オリンピック競技大会は被告によって、開催都市と開催地国内オリンピック委員会の協力の下で開催されている国際的スポーツ競技大会であって、スポーツを通じた社会一般の利益に資することを目的としていると認定し、各無効理由判断の前提として、これが重く圧し掛かったのか各無効理由についてはあっさりとした判断で、否定している。中でも、3条1項柱書き違反については、もっと各指定役務について丁寧に判断すべでき、説得力が弱い。本件事案は、原告が知財専門関係者という特殊な事案であったようである。