知的財産戦略本部(本部長:岸田文雄首相)は、「知的財産推進計画2023」を取りまとめ公表した。推進計画では、多様なプレイヤーが、知的財産の価値を最大限に引き出す社会へと変革していくことが重要との考えを提示。「スタートアップと大学の知財エコシステムの強化」「生成AI技術の活用促進と知的財産の創造インセンティブ維持の双方に配慮した必要な方策の検討」「コンテンツ産業戦略、改正著作権法の着実な施行」などに取り組むことなどが示された。
商標に関する記載は以下の通り;
商標に関する基本認識:大きな変化が見られない日本
競争力や新たな価値創出に結実する知財戦略の必要性から、国境を越えた商標出願と特許出願の状況(「科学技術指標 2022」、科学技術・学術政策研究所、2022 年8月)を見ると、米国、ドイツ、フランス、英国、韓国については、いずれも人口当たりの国際商標出願数が国際特許出願数より多くなっているが、日本は、人口当たりの国際商標出願数よりも国際特許出願数が多くなっている。
韓国、ドイツ、フランスにおいては、2002 年時点では日本と同様に人口当たりの国際商標出願数よりも国際特許出願数が多かったが、その後、2019 年にかけて商標の出願数が大きく増加して両者が逆転した。一方、日本は大きな変化が見られない状況となっている。商標の出願数は、新製品や新サービスの導入という形でのイノベーションの具現化又はそれらのマーケティング活動との関係があり、イノベーションと市場化の関係を反映したデータと考えられるとの指摘がある。
商標に係る審査基盤の強化
商標審査については、近年の新たなビジネスモデルの保護の必要性の増加、ブランドが有する資産的価値の重要性を背景に、我が国の商標登録出願件数が増加傾向にある中、特に新製品や新サービスに係る商標登録出願の増加、インターネットを通じて急速に移り変わる取引の実情等、社会構造の変化に迅速に対応した新たなビジネスモデルの創出等に伴い、商標審査官の審査処理負担は増大している。こうした状況を踏まえ、拒絶理由のかからない出願促進等を通じた審査処理の効率化の推進や、商標審査官の増員や商標の拒絶理由横断調査事業等の活用による審査体制の充実が進められている。これに加えて、商標の国際出願の電子化等の商標の国際出願促進に向けた環境整備が求められている。今後、イノベーション促進に向けた根幹のインフラである審査基盤の強化を図っていくことが必要である。
商標登録出願に係る審査基盤の強化:施策の方向性(短期、中期)
商標登録出願件数が高い水準で推移する中、2023年度においても、商標審査の質を維持しながら「権利化までの審査期間」と「一次審査通知までの期間」を、それぞれ、平均7~9か月、平均5.5~7.5か月にする目標に向け、拒絶理由のかからない出願促進及び商標の拒絶理由横断調査事業を活用する等、商標出願の審査処理の効率化及び審査体制の充実を図る。あわせて、商標の国際出願促進に向け、電子出願の利便性を向上するために必要な措置を実施する。
海賊版・模倣品対策の強化:施策の方向性(短期、中期)
・ 海賊版・模倣品を購入しないことはもとより、特に、侵害コンテンツについては、視聴者は無意識にそれを視聴し侵害者に利益をもたらすことから、侵害コンテンツを含む海賊版・模倣品を容認しないということが国民の規範意識に根差すよう、関係省庁・関係機関による啓発活動を推進する。
・ 越境電子商取引の進展に伴う模倣品・海賊版の流入増加へ対応するため、2022年10月に施行された改正商標法・意匠法・関税法により、海外事業者が郵送等により国内に持ち込む模倣品が税関による取締りの対象となったことを踏まえて、模倣品・海賊版に対する厳正な水際取締りを実施する。加えて、善意の輸入者に不測の損害を与えることがないよう、引き続き、十分な広報等に努める。また、他の知的財産権についても、必要に応じて、検討を行う。
知的財産推進計画2023は こちら