2023-08-22

インド:著名ブランドも知的財産保護に警戒を怠りなく - Chadha & Chadha

はじめに
 デリー高等裁判所は、米国に本拠を置く総合病院メイヨー・クリニック(Mayo Clinic)の補助団体であるメイヨー医学教育研究財団(Mayo Foundation for Medical Education and Research、以下「原告」)に対し、ボディサットヴァ慈善信託(Bodhisatva Charitable Trust)等(以下「被告」)による「MAYO」商標及びこれに欺瞞的に類似する商標・名称の使用を差し止める暫定的な救済を認める判決を下した。

背景
 原告は、「Mayo Clinic」商標で医療および教育サービスを提供することで知られ、第16類、第41類、第42類および第44類の商標「MAYO」及び「MAYO」の結合商標(以下、「MAYO」商標)の所有者である。原告はインドで1992年から第16類の文字商標「MAYO」を登録している。「MAYO」は、原告のハウスマークであり、取引スタイルの本質的かつ支配的な部分を構成しており、原告のウェブサイトのドメイン名(www.mayoclinic.org www.mayo.edu)でもある。

 被告は 1995年に法人化し、「Mayo Medical Centre」という名称の病院を1999/2000年にインドのラクナウで開業している。

事実関係
 原告は、2014年に被告が「MAYO」商標と同一の標章を不正に使用していることを発見し、これに対して法的通知を発送したと主張した。そして2016年には被告が第41類に出願した商標に対して異議申立を行った。その後、原告は被告が「MAYO」標章を医療・教育サービスに使用し続け、ディスプレイボード、処方箋、請求書、ドメイン名、商号に使用していたことを知った。加えて、被告は「MAYO」標章を使用して、ソーシャルメディア上で被告のサービスを宣伝していた。原告は、このような商標の使用に憤慨し、被告が原告の登録商標を侵害し、被告の商標であるかのように詐称したりすることの差し止めを求め、今回の訴訟を提起した。 

裁判所所見
デリー高等裁判所の所見は以下の通り;

侵害とパッシングオフ
 裁判所は、原告の商品・サービス(医学雑誌および定期刊行物)は、被告の商品・サービス(病院及び医学・ヘルスケアに関する講義を提供する教育サービス)と関連があると判断する。被告は原告のサービスに類似したサービスに同一の商標を使用しているため、原告の登録商標と混同・関連付けるおそれがあり、侵害が一見して明白であるとした。さらに、原告の「MAYO」商標は、原告のウェブサイト上でユーザーが参加する様々なセッション、様々なニュース、健康レポート、新聞広告によって、インドで十分な名声と信用を獲得しており、パッシングオフも一見して明白であることは立証されている。

先使用
 原告は、2008年に第41類で「MAYO CLINIC」の商標登録を取得しており、被告が「MAYO」標章を教育目的で使用し始めたのは、被告が認めるように2011/2012年である。したがって、インド商標法第34条(既得権についての例外)に基づく先使用の抗弁は認められない。 

被告による「MAYO」標章の採用が誠実であったかどうか
 裁判所は、原告であるメイヨー・クリニックに言及した被告のウェブサイトを評価した結果、被告機関の創設者は原告を認識していただけでなく、メイヨー・クリニックの創設者であるWiliam Mayo博士からインスピレーションを得ていたことを確認した。したがって、被告による「MAYO」標章の採用は不正なものである。

訴訟遅延
 裁判所は、原告商標が先行して存在し使用されていたことを被告は認識していたにもかかわらず、不正に原告商標を採用したと判断した。したがって、本訴の提起において原告側に遅滞があったとしても、それが原告の法的権利を否定する根拠にはなり得ないとした。

承諾の有無
 原告は2014年に法的通知を発送し、被告の出願商標の登録に異議を申立て、訴訟を開始する前に調停手続きを開始した。しかし、被告はこれに参加せず、不正な方法で原告の商標を使用し続けた。したがって、原告による承諾は認められない。

標章の修正提案
 裁判所は、「Dr. Kailash Narayan」という接頭語を追加するという被告の提案は、被告に容易に新しい名称を採用できる余地を残すことを示しており、被告が名称の一部に「MAYO」を使用し続ける正当性はないと判断した。さらに、「Dr. Kailash Narayan Mayo」という名称は、被告と原告との提携・関連について誤った印象を与えるため、追加されたとしても混同が生じるおそれがある。したがって、接頭辞を付加しても、原告商標の本質的特徴である「MAYO」は被告の名称の一部となるため、混同のおそれをなくすことはできない。

認められた救済
 裁判所は、侵害とパッシングオフが一見して明白であることが原告によって立証されたと判断した。さらに、「MAYO」商標と同一の標章の使用は消費者の心に混同を引き起こすおそれが高いため、便宜の比較考量(Balance of Convenience)は原告に有利であり、被告には不利とした。被告が侵害標章を使用してサービスを提供することが許されるならば、原告はその信用と評判に対して回復不能な損害を被り続けることになる。

このように、訴訟の最終判決まで、被告による「MAYO」商標及び欺瞞的に類似する標章/名称の使用は差し止められた。 

結論
 今回のデリー高等裁判所の判決は、商標が後天的識別力を確立する上で、認知と信用が最も重要な役割を果たすことを改めて示したものとして重要である。さらに、この判決を通じ、裁判所は、世界市場で独占的な評判を確立した著名商標が、インドで希釈化され侵害されることがないよう、ダイナミックに保護されることを保証した。前述の事件の被告による侵害商標の公然かつ広範な使用は、本事件の原告のような評判の高いブランドに対し、そのかけがえのない知的財産を保護するために警戒を怠らないよう警告するものでもある。

本文は こちら (Relief for Mayo Foundation against unlawful use of its “Mayo” marks by a charitable trust)