2023-08-21

工藤莞司の注目裁判:図形部分のある本願商標の称呼、観念の認定が争われた事例

(令和5年7月12日 知財高裁令和5年(行ケ)第10005号 「KAZE」事件)

事案の概要 原告(請求人・出願人)は、本願商標(右掲図参照)、指定商品25類「被服」について登録出願をしたが拒絶査定を受け拒絶査定不服審判(2022-7645)を請求した処、 特許庁は不成立審決をしたため、知財高裁に対し、審決取消しを求めて本件訴訟を提起した事案である。
 拒絶理由は、商標法4条1項11号該当で、引用商標は、「KAZE」の欧文字を横書きした登録第6468175号商標、25類他が指定商品及び指定役務である。

判 旨 本願商標中段の緑色の図形部分は、頂点から左右斜め下方向に同じ長さの二本の直線が二等辺三角形状に伸びる欧文字「A」の形状の特徴を備えて、両隣の「K」及び「ZE」の欧文字と同じような大きさ、間隔で一連に表されていることからも、「A」の文字をデザイン化したと認識されるから、取引者、需要者は、中段の構成部分は、全体として「KAZE」の欧文字を表したと認識するといえる。しかるところ、我が国においては、欧文字表記をローマ字読み又は英語風の読みで称呼するのが一般的であり、「KAZE」の欧文字は、・・・「カゼ」 と読むのが最も自然というべきであるから、当該文字部分からは、「カゼ」の 称呼が生じる。そして、「空気の流れ」を意味する「風」又は「感冒」を意味する「風邪」(広辞苑 第七版)が一般に想起されるから、「KAZE」の欧文字からは「風(空気の流れ)」 及び「風邪(感冒)」の観念が生じるというべきである。
 本願商標の要部「KAZE」と引用商標は、「カゼ」の称呼を生じ、「風(空気の流れ)」及び「風邪(感冒)」の観念を生じる点において、 称呼及び観念が同一であることに鑑みると、本願商標の構成全体の外観と引用商標の外観が同一とはいえないことを考慮しても、両商標が本願の指定商品「被服」に使用された場合には、その商品の出所において誤認混同が生じるおそれがあるものと認められるから、本願商標と引用商標は、全体として類似していると認められる。

コメント 本件判決においては、本願商標中、緑色の図形部分について、「A」と認識されると認定し、「カゼ」の称呼、「風(空気の流れ)」及び「風邪(感冒)」の観念を認定し、引用商標と類似商標と判断した。審決とほぼ同旨である。
 判決中、「本願商標の構成全体の外観と引用商標の外観が同一とはいえないことを考慮しても」との説示は意味不明で、外観類似は当然と言いたいのであろうか。しかし、原告主張では触れる処はないが、私見では、本願商標中、緑色の図形部分の存在により、外観非類似は明らかであろう。そうとすれば、称呼及び観念上類似でも、外観を含めてこれらからの印象、記憶、連想について総合観察をすれば、外観の非類似が、平易な日常語の称呼、観念類似を上回り、出所の混同の虞はないとの判断も可能な事案(令和5年3月9日 知財高裁令和4年(行ケ)第10122号 「朔北カレー」事件、平成13年12月12日 知財高裁平成13年(行ケ)第144号 「痛快」事件)とは言えないであろうか。