2023-08-02

工藤莞司の注目事件:「鬼滅の刃」不正競争防止法刑事事件

=新聞報道刑事事件=

 「鬼滅の刃事件」が報道された(23.7.11讀賣)。不正競争防止法刑事事件とあり、以下の通りである(要旨)。『人気漫画「鬼滅(きめつ)の刃(やいば)」を類推させる商品を販売したなどとして、不正競争防止法違反に問われた雑貨輸入販売会社と、同社社長の控訴審判決が10日、名古屋高裁であった。裁判長は、社長を懲役2年、執行猶予5年、罰金300万円、同社を罰金500万円とした1審・名古屋地裁判決を支持し、被告側の控訴を棄却した。1審判決によると、社長は2020年4~8月、緑と黒の市松模様など、漫画に登場する衣装に似た柄4種類を使ったバスタオルなど244点を業者に約12万円で販売するなどした。』

 不正競争防止法違反が目に付いて、データベースから裁判例を検索したが、地裁判決も見付からない。刑事事件は判決文が公開されることはないようだ。ネットで調べると、愛知県警が立件した際の報道があった(21.7.29東スポWEB)。
 それによれば、「愛知県警は28日、不正競争防止法違反(混同惹起行為)の疑いで逮捕した。・・・今回、こうしたデザインでも消費者が正規品と誤解する恐れがあるとして、県警は不正競争防止法違反容疑での立件に踏み切った。」とある。

 立件、すなわち違反行為の対象が、「緑と黒の市松模様など、漫画に登場する衣装に似た柄4種類を使ったバスタオル」(参考 前掲図集英社出願商標)であるため、不正競争防止法2条1項1号の混同惹起行為となったようである。商品等表示「緑と黒の市松模様など」は周知性があり、その類似の表示の使用が出所について具体的な混同の虞がある行為である。そして、刑事罰には、被告人に不正の目的(不正の利益を得る目的や他人に損害を与える目的)が必要で(不正競争防止法21条2項1号)、法人にも罰金刑が可能であり(不正競争防止法22条)、報道によれば、これらの点について、一審、二審裁判所は共にすべてを肯定したことになる。不正競争防止法違反事件では、刑事事件は少なく、中でも2条1項1号事件は、最近では見当たらないといって良い。稀有な事件である。