2023-09-21

ブランドの背景にある物語:カルティエの「ジュスト アン クル」 - R. K. Dewan & Co.

 ブランドは、単なる名前やロゴではなく、長い時間をかけて築き上げられた物語であったり世代から世代へ受け継がれたりするものが具象化されたものだ。すべてのブランドの背景には、アイデンティティを形成し、成功に寄与してきた豊かな歴史とユニークな状況が存在する。これらの物語はブランドの重要な一部となり、ブランドロイヤリティを築き、顧客との不可欠なコミュニケーションツールとなっている。今回はカルティエの「ジュスト アン クル」コレクションにスポットライトを当てた。

 「Juste un clou(ジャスト アン クル)」は、「ただの1本の釘」との意味だが、高級ファッションブランド、カルティエの象徴的なジュエリーコレクションだ。釘を曲げたようなデザインのリング、ブレスレット、ネックレス、イヤリングなどで構成されている。「ジュスト アン クル」の誕生秘話は魅力的なもので、デザイナーのAldo Cipullo (アルド・チプロ)は、思いがけないところからインスピレーションを得て、デザインに深い意味と象徴性を吹き込んだ。「ジュスト アン クル」コレクションを創作する以前も、チプロは才能あるジュエリー・デザイナーとして、すでに業界で名を馳せていた。チプロは以前、カルティエのために象徴的な自由な愛のシンボル「LOVE」コレクションをデザインして大成功を収め、今日に至るまで人気のジュエリーとなっている。しかし、チプロはその成功に甘んじることなく、常に新しい挑戦とインスピレーションを求めていた。

 「ジュスト アン クル」の構想がチプロに浮かんだのは1960年代後半、社会と文化の大変革期だった。世界は急速に変化し、人々が伝統的な価値観や基準に疑問を抱いていた。
チプロは、愛と犠牲の両方を象徴するものを作りたかった。チプロは釘という日常的なものにインスピレーションを得て、それを豪華で魅力的なジュエリーとして再構築した。
チプロは、釘にはある種のままの美しさと真正性があり、それをデザインによって高められると信じていた。「ジュスト アン クル」コレクションのキー・エレメントである釘は、イエス・キリストの受難に関連したものだ。キリスト教の伝統では、キリストを磔にするために使われた釘は、キリストの苦しみと人類のための犠牲の象徴とみなされており、愛と献身の力強いシンボルとしてしばしば芸術や文学に描かれている。

 さらに、「ジュスト アン クル」コレクションのデザインもまた、犠牲の思想を体現している。このコレクションは、釘を曲げて形を変え、複雑でエレガントなジュエリーに仕上げている。この変身には多大な努力と技術が必要であり、人間関係においてしばしば必要とされる自己犠牲と変身のプロセスのメタファーと見ることもできるだろう。

 1971年に発表されたコレクションは、愛のシンボルとして男女を問わず人気を博し、瞬く間に成功を収めた。このコレクションは、今でもカルティエの遺産として愛され、象徴的な存在であり続けている。このコレクションは、世界中のデザイナーやファッション愛好家にインスピレーションと影響を与え続けており、その時代を超越したデザインと反骨精神は、この先何年も伝統であり続けることは確実だ。