2023-09-20

工藤莞司の最近の裁判例紹介:商標「熟成鰻」が商標法3条1項3号及び同4条1項16号に該当するとされた事例

(令和5年8月31日 知財高裁令和5年(行ケ)第10029号 「熟成鰻事件」)

事案の概要 原告は(審判請求人・出願人)、右掲図の構成からなる商標について、43類「死後硬直後のうなぎを用いたうなぎ料理の提供」を指定役務として、登録出願をしたが拒絶査定を受けて拒絶査定不服審判(2021-15053)を請求した処、特許庁は不成立審決をしたため、知財高裁に対し、審決取消しを求めて、訴えを提起した事案である。拒絶理由は、商標法3条1項3号及び同4条1項16号該当である。

判 旨 本願商標の「熟成鰻」からは、熟成させた鰻という意味合いが生じ、取引者、需要者は、通常、本願商標は、その指定役務の質を示すものと認識するにとどまるものと解される。「普通に用いられる方法で表示」の要件についてみるに、各種ウェブサイトによれば、飲食店一般において、提供される料理の質(内容)を筆文字風の書体をもって四角囲みで表示することが普通に行われている(証拠略)上、鰻を提供する飲食店のロゴ、看板、のれん等に限ってみても、筆文字風の書体を四角囲みで表示することが普通に行われていると認められる(証拠略)。本願商標は、「普通に用いられる方法で表示」の域を出るものではない。以上のとおりで、本願商標が商標法3条1項3号に該当するとした本件審決の判断に誤りはない。本願商標をその指定役務中、「熟成させた鰻の提供」以外の役務に使用するときは、その役務が「熟成させた鰻の提供」であるかのように、役務の質の誤認を生じさせるおそれがあるから、本願商標は、商標法4条1項16号に該当するというべきである。

コメント 本願商標は、審査、審判及び裁判が示したとおり、商標法3条1項3号該当事例である。出願人側の意図は不明であるが、独占を目指したのであろうか。3号による不登録の趣旨については、判例は、識別性なしに独占不適も含めて解釈している(「ワイキキ事件」昭和54年4月10日 最高裁昭和53年(行ツ)第129号 審決取消集〔昭和54年〕763頁)。商標の専門家であれば、事前に理解しているであろう。