2023-09-25

工藤莞司の最近の裁判例紹介:外観上類似とされた図形商標の事例

(令和5年8月31日 知財高裁令和5年(行ケ)第10032号 「スマイルマーク事件」)

事案の概要 原告(異議被申立人・商標権者)が有する商標(左掲図、登録第6524017号)で、指定商品14類、16類、18類、25類に属する商品とする本件商標の登録に対し、 異議申立人(引用商標権者、右掲図商標登録第6504983号外)は、本件商標の全指定商品について商標法4条1項11号違反を理由に登録異議(2022-900202)を申し立てた処、 特許庁は本件商標の指定商品中、18類「レザークロス、皮革、皮革製包装用容器、ペット用被服類、かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ、傘、ステッキ、つえ、つえ金具、つえの柄、乗馬用具」についての登録を取り消し、その余の指定商品についての登録を維持する決定をしたため、原告は、知財高裁に対し、本件決定のうち本件取消指定商品についての登録取消部分の取消しを求めて、訴えを提起した事案である。

判 旨 本件商標と引用商標の外観は、いずれも、黄色の円の中央上部に、黒色縦長な楕円形の点を上下左右2個ずつ合計4個配置して、人の目のように描き、その下方に両端を上向きにした黒色円弧を人の口のように描いた図柄であり、4つ目の人の顔を、鼻、耳、髪等を捨象した黄色一色のシンプルな円形と点状の目及び円弧状の口だけで表現したものである点で外観上共通している。細部をみると、原告の主張するように、目の形、位置、口の線の曲がり具合、位置、線の太さ、口元のえくぼを想起させる線の有無が異なるが、これらの相違は、本件商標と引用商標を並べて対比的に観察してようやく認識できる程度のものにすぎない。現実の取引の場面においては、 取引者・需要者は、自己の記憶にある商標に基づいて商品・役務を選択するのであるから、時と場所を異にする離隔的観察を基本とすべきであり、本件取消指定商品の取引者・需要者が、その出所を識別できるほどの相違とはいえない。

コメント 本件事案は、言わば二重登録事件で、異議申立てで登録取消しの決定がなされ、知財高裁でも異議決定が維持されたものである。原告の主張は、両商標の子細な細部についての相違であり、裁判所は、現実の取引の場面においては、 取引者・需要者は、自己の記憶にある商標に基づいて商品・役務を選択するのであるから、時と場所を異にする離隔的観察を基本とすべきとして、一蹴している。図形商標の外観類似では、当該図形商標の基本的構成の一致乃至は共通性が重視される。審査で見落としたようで、異議申立て制度が機能した事例である。