2023-09-15

工藤莞司の注目裁判:位置商標について商標法3条1項3号該当性が争われた事例

(令和5年8月10日 知財高裁令和5年(行ケ)第10003号「靴位置商標事件」)

事案 原告(審判請求人・出願人)は、本願商標について位置商標(右図、別紙説明参照)として登録出願をし、拒絶査定を受けて不服審判(2021-2446)を請求するとともに、指定商品を25類「革靴、ブーツ」に補正したが、特許庁は不成立審決をしたため、知財高裁に対し、審決の取消しを求めて提訴した事案である。拒絶理由は、本願商標は商標法3条1項3号に該当し、また3条2項の要件を具備しないとしている。
 (別紙)商標の詳細な説明 商標登録を受けようとする商標は、標章を付する位置が特定された位置商標であり、靴の上部とソール(靴底)部分が接した境界部分の領域に靴の外周に沿って配された黄色の破線状の図形からなる。

判旨 靴上部とソール(靴底)部分が接した境界部分領域に靴外周に沿って配された破線状の図形について 本願商標の位置は、一般的な製造方法により靴製品を製造した場合に、通常、ステッチが現れる位置であり、また、糸の縫い目であるステッチが破線状になることは通常のことといえるから、本願商標の位置に破線状の図形を設けることは、靴の形状として、普通に用いられるものといえる。
 破線状の図形の黄色について 黄色は、本願商標の破線状の図形を表す方法の一つであるグッドイヤーウェルト製品により黄又は黄系統の靴製品を製造する場合には、一般的に選択される色彩といえるから、本願商標の破線状図形の色彩に黄色を選択することは、通常のことであるといえる。したがって、本願商標は、指定商品革靴及びブーツの形状として、普通に用いられる形状その他の特徴のみからなる標章であるというべきであり、少なくとも黄又は黄系色の靴製品を、一般的な製造方法であるグッドイヤーウェルト製法により製造する者であれば、何人も使用を欲するもので、かつ、一般的に使用される標章というべきであるから、商標法3条1項3号に該当すると認めるのが相当である。
 商標法3条2項該当性についての判断の誤り 少なくとも黒い革靴に用いる場合には、本願商標は相当程度の認知度を得ているということができるとしても、それ以外の色の革靴及びブーツに用いられる場合の本願商標の認知度が高いと認めるに足りる証拠はないというほかない。

コメント 本願商標、指定商品「革靴、ブーツ」に係る「位置商標」について、商標法3条1項3号該当性が争われて、肯定されたもので、審決と同じ結論である。位置商標は、平成26年改正で採用された新しいタイプの商標の一つで、「位置商標」に係る標章は、文字、図形、記号、立体的形状又は色彩等により構成され、それが付される位置が特定される点に特徴を有するが、構成自体は、在来の商標と異ならないとされる。
 本件事案でも、外周に沿う破線の形状や黄色の色彩は、いずれも指定商品靴等では、当該業界においては普通に使用されていると認定され、また独占不適とされている。更に、使用による識別性の獲得も、使用実績商品と指定商品とで齟齬があったようである。この場合、使用商品と指定商品との一致が前提となる。
 本件事案と同様に、識別性否定の不成立審決を支持した知財高裁裁判例として、以下の3件がある。「対流形石油ストーブ位置商標事件」(令和2年2月12日 令和元年(行ケ)第10125号)、「毛髪カット用くし位置商標事件」令和2年8月27日 令和元年(行ケ)第10143号)、「焼肉のたれ容器位置商標事件」(令和2年12月15日 令和2年(行ケ)第10076号)。