商標権が侵害された場合、商標権者が被った損害の算定方法については、最近の知的財産・商業裁判所(IPCC)の判決(109年度民商上更(一)字第2号民事判決)が参考になる。その要点は以下のとおりである。
1. 商標権者が損害賠償を請求する場合、商標権の侵害行為により得た利益に基づいてその損害額を算定することができる。商標権侵害者がそのコスト又は必要経費について立証できない場合は、当該商品の販売により得た収入の全部をその所得利益とする。(商標法第71条第1項第2号)
2. 売上総額を侵害者の所得利益とするのは、権利者が侵害者の侵害により得た利益の額を知ることができない場合、その立証責任を軽減するために、立証責任を転換する規定である。侵害者がその侵害行為のために支出したコスト又は必要経費について立証した場合に限り、侵害者は、侵害品の販売により得た収入の全部から当該コスト及び必要経費を控除することができる。したがって、侵害者はその侵害行為のために支出したコスト又は必要経費について立証責任を負わなければならず、立証できない場合、その侵害品の販売により得た収入の全部をその所得利益として商標権者に賠償しなければならない。
3. 商標法第71条第1項第2号の「コスト及び必要経費」は、侵害品の製造又は販売のために直接支出したコスト又は必要経費に限られ、間接コストは含まれない。給与、研究費、賃料、旅費、運賃、修繕費、保険料、減価償却費、事務用品費、郵便通信費、広告費、水道光熱費、手数料、研修費、その他の費用は、いずれも企業経営上発生する固定のコストに属し、商標権侵害行為に直接起因するコスト及び必要経費とは認めがたい。
4. 商標の貢献(寄与)度を考慮すべきか否かについては、裁判所は以下の事情を考慮し、本件では商標の貢献度を考慮する必要はないとした。消費者が接触及び体験するのは、実体のある商品や役務ではなく、オンライン授業サービスのコンテンツであるため、マーケティングにおいて、「ブランド」や「商標」の宣伝がより重要である。また、オンライン授業では、無料トライアルや返金の仕組みがあるが、一般商品のクーリング・オフ制度や返品の仕組みと何ら変わりはない。商標法第71条第1項第2号は、商標権侵害の損害賠償は、商標権の侵害行為によて得た利益に基づき算定することができ、商標権侵害者がそのコスト又は必要経費について立証できない場合は、当該商品の販売により得た収入の全部をその所得利益とする旨を規定しているため、商標権を侵害する商品又は役務の販売による収益はすべて商標権者に帰属すると考えるべきである。さもなければ、侵害品又は役務の販売による収益が、商標に由来するものか商品自体の価値に由来するものかを区別することができない。実際、両者の適切な割合を客観的かつ合理的に決定することは困難である。
5. 商標権者の同意を得ずにその商標権を侵害した訴訟において、損害賠償金額は、合法的な交渉により支払われたライセンス料の額を上回るべきである。さもなければ、商標権者の事前の同意や許諾を得ることなく直ちに侵害し、侵害で訴えられた場合、侵害者は法的に交渉されたライセンス料と同額かそれ以下の賠償金しか支払う必要がないことを侵害者に促することに等しい。これは、侵害の発生を助長するに等しく、商標権者にとって明らかに不公平である。