2023-10-26

工藤莞司の注目裁判:ありふれた氏に製麵所を結合した「池上製麵所」は商標法3条1項4号に該当するとされた事例

(令和5年9月7日 知財高裁令和5年(行ケ)第10031号 「池上製麵所事件」)

事案の概要 原告(審判請求人・出願人)は、本願商標「池上製麺所」(標準文字)について、指定役務43類「飲食物の提供」(補正後)として登録出願をしたが拒絶査定を受けて、拒絶査定不服審判(2022-10063)を請求した処、本願商標は商標法3条1項4号該当として、特許庁は不成立審決をしたため、知財高裁に対し、審決の取消しを求めて提訴した事案である。

判 旨 前記各事実に照らすと、「製麺所」の名称は、もともとは、麺工場などの麺類を製造する所を指していたものであるが、製麺所において飲食物うどん等を提供するという業態が一般化するなどし、さらには、少なくとも本件審決時までに、全国的に、「○○製麺所」という名称のうどんやラーメン等の麺類を提供する飲食店が少なくない数において存在するに至っている。このような実態に照らすと、本件審決時においては、本願商標の指定役務である「飲食物の提供」の取引者、需要者は、「製麺所」の名称について、麺類を製造する所を意味するものと認識、理解するのみならず、麺類を提供する飲食店を指す店名の一部として慣用的に用いられているものと認識、理解すると認めるのが相当である。
 本願商標は、ありふれた氏「池上」と、麺類を提供する飲食店を表すものとして慣用的に用いられている「製麺所」を組み合わせた「池上製麺所」を標準文字で表したものであり、「池上」氏又は「池上」の名を有する法人等が運営する麺類を提供する飲食店というほどの意味を有する「池上製麺所」というありふれた名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標と認められるから、 商標法3条1項4号に該当するというべきである。

コメント 本件事案については、本願商標「池上製麺所」が商標法3条1項4号のありふれた名称に該当するとして、知財高裁も審決を支持したものである。「製麺所」も慣用の表示として、この結論を導いている。原告の「池上製麺所」は現にありふれていないとの主張に対しては、3条1項4号の文言上、現に多数存在することは要件とはされていないとした。しかし、「ありふれた名称」をどう解するかで、要件ではないとは行き過ぎであろう。ありふれた氏「池上」と、慣用の表示「製麵所」とを結合してもありふれた名称との認定は、経験則による推認であろうか。
 これに対して、少し前の裁判例は、「森田ゴルフ株式会社」については、「森田ゴルフ」を基準として判断すべきとして、ありふれた名称ではないとした裁判例(平成6年(行ケ)第180号 東京高裁平成7年6月13日 上告棄却平成9年9月9日 最高裁平成7年(行ツ)第164号)がある。
 「ありふれた名称」をどう解するかで、普通に読めば「ありふれた氏」と同様に、後者の裁判例であろうが、3条1項の総括規定たる6号の規定に従い需要者の認識を基準とした経験則からの判断であれば、前者の本件裁判例も肯定されよう。因みに商標審査基準は、原則として本件裁判例の結論と同旨としている(「商標審査基準」15版3条1項4号1.(2))。