2023-10-02

工藤莞司の注目裁判:契約違反を理由とした商標権移転登録の抹消請求が否定された事例

(令和5年8月28日 大阪地裁令和2年(ワ)第9135号 「千鳥屋商標移転登録抹消登録等請求事件」)

 原告請求の概要 原告は、平成28年7月15日、被告P1と本件商標権を含む合計5 件の商標権の譲渡契約をするとともに、被告P1は、同日、原告に対し、前記5件を含む合計11件の商標権について、無償での専用使用権の許諾契約した(「専用使用権許諾契約」)。専用使用権許諾契約には、被告P1、原告の事前の承諾なく、前記11件の商標権を第三者に譲渡し又は原告の使用権の範囲外で第三者に使用許諾してはならない旨の特約(「本件譲渡禁止特約」)が付された。
 本件は、原告が、被告らに対し、原告の被告P1に対する本件商標権の専用使用権設定登録手続請求を被保全債権とする、被告P1の被告P2及び被告総本舗に対する本件移転登録の抹消登録手続請求である。

判 旨 争点1(本件移転登録は、被告P1と被告P2及び被告総本舗の合意に基づくものか)について (1) 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、 被告P1は、平成29年4月10日、被告P2及び被告総本舗に対し、本件商標権等の持分3分の1をそれぞれ無償で譲渡する旨の合意を書面をもって行い(証拠略)、被告P2及び被告総本舗は、同合意に基づき、同月19日、本件移転登録を行ったものと認められる。この点に関する被告らの主張は、理由がある。 (2) 原告は、仮に、本件移転登録が被告P1の意思に基づくものであったとしても、本件移転登録は、物権的な効力を有する本件譲渡禁止特約に反するもので絶対的に無効である旨を主張する。しかし、商標権の設定登録は商標権の発生要件であり(商標法18条1項)、専用使用権の登録もまた効力発生要件であること(同30条4項、特許法98条1項2号)からすると、登録を伴わない契約当事者間の単なる合意が本件移転登録の効力に優越するとは考え難い。原告の前記主張は採用できない。 以上から、本件移転登録は、被告P1と被告P2及び被告総本舗の合意に基づくものと認められる。したがって、被告P1が被告P2及び被告総本舗に対して本件移転登録の抹消を求める法的根拠はなく、原告の被告P2及び被告総本舗に対する請求は、いずれも理由がない。
 また、本件移転登録により本件商標権は被告らにおいて共有される状態となったところ、被告P2及び被告総本舗が、本件商標権につき原告に専用使用権を設定することについて承諾する見込みはない(弁論の全趣旨)から、専用使用権許諾契約に基づく、被告P1の原告に対する専用使用権設定登録手続債務は社会通念上履行不能となったというべきである。したがって、原告の被告P1に対する主位的請求もまた理由がない。

コメント 本件は、原告と被告P1との間で、本件商標権について譲渡禁止付きで専用使用権設定契約をしたがその未登録の間に、被告P1が、被告P2及び被告総本舗に対し持分を譲渡してその移転登録を経てしまった事案である。原告は、譲渡禁止付き契約違反として、持分移転登録の抹消を求めたが、専用使用権の設定が効力発生要件であることを根拠として、登録を伴わない契約当事者間の単なる合意が本件移転登録の効力に優越することはないとされた。この点、商標権者が二重に譲渡等契約をしても、先に登録を経た方が権利を取得するのと同じで、登録が効力発生要件の故である(商標法30条4項、特許法98条1項1号)。
 なお、被告P1の原告に対する専用使用権設定登録手続債務の履行不能に伴う損害賠償請求については、損害発生不明として棄却された。