事件の概要
(一)原告「楽心医療」と主な訴え
原告の広東楽心医療電子股フン有限公司(以下、「楽心医療」)は2002年に設立され、2011年に自社ブランド「楽心」を立ち上げ、正式に国内のスマートヘルス分野に参入した。主に健康体重計、血圧計、スマートブレスレット、スマートウォッチを販売しており、2015年第4四半期には、「楽心」は初めてAppleを超え、シャオミに次ぐ中国の2大ウェアラブルデバイスブランドとなり、2016年11月には深セン証券取引所に上場した。
「楽心医療」は、2011年8月より健康体重計と血圧計を指定商品として商標「楽心」の使用を開始したが、商標は後日出願、登録された。第9類「体重計」などを指定商品とした商標「楽心」は2011年4月に出願、2012年5月に登録が許可され、第10類「血圧計」などを指定商品とした商標「楽心」は2014年3月に出願、2016年9月に登録が許可された。「楽心医療」は2013年8月に「楽心」スマートブレスレット、2014年6月に「楽心」スマートウォッチを発売し、中国のウェアラブルデバイス市場で急速に一角を占めるに至っている。しかし、スマートウェアラブル製品が通常登録される第9類0901類似群において、原告の登録商標「楽心」の指定商品は、スマートリング、スマートグラス、リストバンド型スマートフォンなどのスマート端末のみで、「スマートブレスレット」や「スマートウォッチ」は含まれていない。一審で「楽心医療」は、登録商標「楽心」は第9類の体重計、第10類の血圧計において「馳名(著名)」であることの認定と、区分を超えた保護の認定を求めた。また、「楽心」はスマートブレスレット商品において未登録馳名商標(日本の「著名商標」に相当――訳注)を構成すると主張した。
(二)被告「岩岩貿易」と主な抗弁
被告の鄭州岩岩貿易有限公司(以下、「岩岩貿易」)は2008年に設立され、商標「楽心HIIN」を2010年10月に出願し、2011年10月に第14類(腕時計、目覚まし時計、宝飾品など)を指定商品とする登録が許可された。
2019年10月、原告は被告の天猫オンラインショップおよび事業所から「楽心HIIN」スマートウォッチおよびスマートブレスレット製品を多数、公証購入した。被告は抗弁で、被告の登録商標の登録出願および使用は先行しており、被告は自社の登録商標を合法的に使用し、スマートウォッチおよびスマートブレスレットは自社の登録商標の保護範囲に属し、商標権侵害を構成しない旨を主張した。
法院の判决
2022年3月、深セン市中級法院は一審判決において、被疑侵害製品は腕時計の形状にデザインされているが、現象を通して本質を洞察し、製品の実際の機能、役割、使用効果から見ると、単に時間の機能のみを提供する腕時計ではなく、手の部分のスマートウェアラブル類商品に属するため、自社の登録商標の使用に関する被告の抗弁は成立しないと判断した。スマートブレスレット商品に付された原告の未登録商標「楽心」は関連公衆に周知されており、未登録著名商標として認識されるべきである。被疑侵害商品はスマートブレスレットと本質的に同じであり、商標も類似しており、原告の未登録著名商標を侵害するものである。本件の未登録著名商標を認定する状況において、登録商標が馳名(著名)であるか否か、および区分を超えた保護の認定はもはや必要ない。
2023年9月、広東省高級人民法院の二審判決は、権利侵害の特性に関する深セン中級人民法院の判決を維持し、事情を斟酌して損害賠償額を減額する判決を下した。二審判決の中核となる見解は以下のとおり。
1.被告が第14種「腕時計」を指定商品とする自社の登録商標「楽心」を適正に使用しているとみなすのか、それとも指定商品の範囲を超えて使用しているとみなすのかという問題について、広東省高級人民法院は以下のように判断した。係争スマートウォッチと被告が指定商品とする腕時計は同類商品ではなく、本件証拠では、係争スマートウォッチ商品において、被告に先使用の事実があることを証明するには不十分であり、被告の登録商標が一定の知名度を有することを示す証拠もない。したがって、被告の登録商標の保護範囲がスマートウォッチ、スマートブレスレット商品に及ぶとするには不十分である。スマートブレスレットとスマートウォッチが被告の登録商標の保護範囲内であるという被告の主張は事実的、法律的根拠を欠いている。
2.「楽心」が「スマートブレスレット」商品における未登録著名商標であるという根拠が十分であるか否かという問題について、広東省高級人民法院は以下のように判断した。広東楽心公司と深セン楽心公司が2019年10月以前に「スマートブレスレット」に「楽心」という未登録商標を使用していたことは、関連公衆によく知られており、市場での知名度も比較的高く、すでに良好な評判を形成している十分な根拠のある事実である。
3.被疑侵害商品の属性の問題について、広東省高級人民法院は以下のように判断した。製品説明書と当院の検証状況によると、被疑侵害商品の主な機能はデータ処理、健康モニタリングであり、すべての機能を使用するにはアプリをダウンロードする必要がある。被疑侵害商品と、第14類の貴金属合金、宝飾品、腕時計などの商品とは、実際の機能および使用効果においてその差異は明らかであり、被疑侵害商品がスマートブレスレットと同類の商品であるという一審での認定は不適切ではない。
典型的な意義
本件は、未登録著名商標を通じて、「区分表」に収載されていない「非規範的な商品」が併せて保護された典型事例である。本件は、被疑侵害商品の説明書、実地検証、および商品の構造、機能の分析を通じて、被疑侵害商品について商標法の意義における類別および属性を確認し、今後、より多機能な組み合わせによる完成品および複合材料による新製品に係る商標権侵害の問題に対し、参考に値する審理方針を提供した。
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