2024-01-22

工藤莞司の注目裁判:侵害訴訟で、禁反言の原則が採用されて、請求の一部が否定された事例

(令和5年12月14日 大阪地裁令和2年(ワ)第7918号 「Robot Shop」商標権侵害事件)

事案の概要 本件は、本件商標権(商標「Robot Shop」標準文字、登録第5776371号7、9、37、38、41類)を有する原告が、被告管理のウェブサイトにおいて、被告標章(下掲参照)を付してロボットの画像を展示する行為及び被告商品に関する広告等を提供する行為が本件商標権の侵害に当たるとして、被告に対し、商標法36条に基づき前記行為の差止めを求めるとともに、民法709条に基づく損害賠償請求等の支払を求めた事案である。

 

判 旨 商標の類否 本件商標と被告標章は、いずれも「ロボットショップ」の称呼が生じ、「ロボットの店」という観念が生じることから、称呼及び観念が同一又は類似する。また、被告標章の外観は、デザインが施されるなどされ、全体としてロゴ化しているものの、「RobotShop」の欧文字にデザイン等が施されたものにとどまり、「RobotShop」の欧文字構成が読み取れることには変わりはないから、本件商標と被告標章の外観は少なくとも類似するものといえる。したがって、本件商標と被告標章は、称呼、観念、外観がいずれも類似し、両者は類似すると認められる。
 そこで、侵害商品目録の「6.ロボショップアプリ・ストア」の「(6) Phidgets」 を除く、被告商品の類否について検討するに、証拠(略)等によれば、被告販売商品について、同説明内容に照らすと、被告販売商品のうち、「被告商品」欄の「3.ツー ル・機器」の「(14)原材料」、同「(15)Vinyl Cutting Machine s」及び同「(16)卓上工具」(以下、前記「(6) Phidgets」を含め、「非類似商品」という。)を除く商品は、いずれも「原告の主張」欄の「○」が付された各指定商品と少なくとも類似すると認められる。
 禁反言の原則 本件商標を35類の工業用ロボットの小売等の指定役務に使用することは、商標法3条1項3号に該当すること等を理由とする拒絶理由通知書の送付を受け、前記商品及び役務を指定商品等から除外して、本件商標の登録を受けたことが認められる。以上から、原告が、ロボット類似品に対して本件商標権の侵害を主張することは、禁反言の原則により許されない。
 商標法26条1項2号該当性 被告標章を、「ロボット」及び「販売地(店舗)」の意味に理解するのではなく、商品の出所を表示していると理解するものと認められ、また、被告標章が商品の普通名称及び販売地を「普通に用いられる方法で表示」しているとは認められない。

コメント 本件事案では、原告の商標権侵害に基づく請求の一部に対し、被告主張の禁反言の原則による抗弁が争点の一つとなり、これが認められたという稀有な判決となった。裁判所は、本件商標を工業用ロボットの小売等の指定役務については3条1項3号該当との拒絶理由通知を受け、前記商品及び役務を除外して登録を受け、原告が、ロボット類似品に対して本件商標権の侵害を主張することは、禁反言の原則により許されないとの判断をした。これは、侵害訴訟においては、商標権者が出願経過で自己が行った主張と矛盾する主張は許されないとする法理とされる(包袋禁反言とも称される)。しかし、補正で削除したロボットに基づく行使ではない。本件商標の指定商品(補正後の現指定商品)に類似する被告使用商品に対しては、禁止権の行使(37条1号)で、禁反言の原則からは外れていると考えられる。
 商標法26条1項2号に係る販売地該当の抗弁は斥けられて、損害賠償等請求の一部は認められている。