今夏のオリンピック・パラリンピック競技大会のような大規模イベントのスポンサーになるにはコストが高く、競争も激しい。そのため、世間の注目を集めるための別の方法を模索している企業も少なくないはずだ。しかし、「アンブッシュ・マーケティング」は、チャンスだけでなくリスクをもたらすこともある。
パリが世界最大のスポーツイベントを開く準備を進める中、舞台裏では複雑な知的財産権保護の駆け引きが繰り広げられている。スポンサーシップは、テレビ放映権と並んで、組織委員会と国際オリンピック委員会(IOC)がオリンピック・パラリンピックの運営に関わる莫大な資金を回収する主たる方法のひとつである。また、スポンサーシップによって、開催国はスタジアム建設、インフラ整備、警備、宿泊施設などの自国投資の一部と均衡させている。
2024年オリンピックの著名なスポンサーには、コカ・コーラ、Airbnb、サムスンなどがいる。スポンサー企業はそれぞれ、大会が惹きつける多くの観客に広告を出す権利と引き換えに、相当額のスポンサー料を支払っている。しかし、すべての企業にそのような予算があるわけではない。「アンブッシュ・マーケティング」による宣伝に労力と創造力を集中させる企業もある。「アンブッシュ・マーケティング」は、主催者にスポンサー料を支払うことなく、大きなイベントに露出して注目を浴びることで利益を得ようとするマーケティング戦略だ。
アンブッシュ・マーケティングの事例:ババリア/FIFA
アンブッシュ・マーケティングの有名な例は、2010年のサッカー・ワールドカップ南アフリカ大会で起こった。オランダがデンマークと対戦している最中、観客席の36人の女性グループが突然、普段着から鮮やかなオレンジ色のドレスに着替え、オランダのビール・ブランド「ババリア(Bavaria)」を宣伝し始めたのだ。この注目を集める大胆な行為により、女性たちはスタジアムから追い出され(うち2人は後に逮捕された)、ババリアは刑事責任を問われ、主催団体であるFIFAに賠償金を支払うことになった。それにもかかわらず、このキャンペーンは多くのメディアの注目を集め、このビール・ブランドにとって大きな露出となった。
直接・間接のアンブッシュ・マーケティング
アンブッシュ・マーケティング戦略には、直接的な方法と間接的な方法がある。前者は、登録商標を悪用して、企業がイベントのスポンサーであるかのように思わせる行為を指す。これに対し、ババリアの行為は、間接的なアンブッシュ・マーケティングの一形態だ。ここでは、登録商標が悪用されたわけでも、ババリアがワールドカップのスポンサーであるという直接的な主張がなされたわけでもない。
期待?不正?知的財産権侵害?
アンブッシュ・マーケティングは、オリンピックのような大きなイベントで安く広告を出すための安易な方法と捉えたくなるかもしれないが、この行為はイベントの組織、収入、公式スポンサーに悪影響を与える可能性がある。さらに、オリンピックに関連する標章が許可なく使用された場合、アンブッシュ・マーケティングは知的財産権侵害に触れる虞があり、誤解を招く広告や不正競争となることもある。
不正競争は、企業が誤解を招くような行動や不正な行為(この場合はマーケティング活動)により、競合他社よりも優位に立とうとする場合に生じる。非公式スポンサーもまた、公式スポンサーがイベントに投入した資金や信用に無断で便乗しようとすれば不正競争と認定されるかもしれない。その場合、アンブッシュ・マーケティング活動を行った企業は、不正競争によって被った損害について責任を負わなければならない。
スポンサー料を払わずにオリンピックでクリエイティブな広告を出したいという誘惑に駆られるかもしれないが、知的財産権侵害や不正競争のリスクを含め、アンブッシュ・マーケティング戦略の法的・倫理的な影響を考慮することが重要だ。
本文は こちら (Ambush marketing: Harmless fun or harmful IP infringement?)