2024-03-27

工藤莞司の注目裁判:審決取消訴訟で提出した登録商標の使用証明で、不使用取消し審決が取り消された事例

(令和6年1月30日 知財高裁令和5年(行ケ)第10018号 不使用取消し審決取消請求事件)

事案の概要 被告(請求人)は、本件商標について、登録取消審判(2022-300380)を請求した処、特許庁は、商標登録を取り消す旨の審決をし、その謄本は令和5年1月19日に原告(被請求人・商標権者)に送達された。原告は、本件審決の取消しを求めて、知財高裁に対し、本件訴えを提起し、使用事実を提出した事案である。本件審決の理由は、商標法50条による商標登録取消審判の請求があったときは、原告は被告による商標登録の取消審判請求に対して答弁しないから、同条に基づき本件商標の登録を取り消すべきというものであった。

判 旨 前記・・・において認定した事情を総合すると、本件商標の商標権者である原告が、本件審判手続に係る被告の審判請求の予告登録前3年以内に、日本国内において、本件商標の指定商品に含まれる眼鏡用フレームについて 本件商標と社会通念上同一と認められる商標の使用をしていることを証明したと認めることができる。
 被告は、平成3年最高裁判決(最高裁昭和63年(行ツ)第37号 平成35年4月23日 民集45巻4号538頁)は、本件において適用されるべきではなく、本件訴訟において、原告による新たな立証を許すべきではないと主張する。しかし、商標法50条2項本文は、登録商標の使用の事実をもって商標登録の取消しを免れるための要件とし、その存否の判断資料の収集につき商標権者にも責任の一端を分担させ、 もって審判における審判官の職権による証拠調べの負担を軽減させたものであり、商標権者が審決時において使用の事実を証明したことをもって、商標登録の取消しを免れるための要件としたものではないと解される(前掲平成3年最高裁判決)。したがって、被告の上記主張は採用することができない。

コメント 本件事案では、不使用取消審判に関し使用の事実の立証時期が争われ、判例通りに取消訴訟での立証も認められて、審決が取り消されたものである。この点、現50条の改正当初 商標権者側、すなわち、被請求人が登録商標の使用を立証できる時期については、審判段階に限られると説明されていたが、その後、最高裁において、取消訴訟の事実審(東京高裁)口頭弁論終結時まで可能とする判決が出された(前掲「シェトア事件」平成3年最高裁判決)。知財高裁は、この判例を踏襲した。
 この判例に対しては、審決取消訴訟での審理範囲や新たな証拠提出を制限した最高裁大法廷判例(「メリヤス編機事件」昭和51年3月10日 最高裁昭和42年(行ツ)第28号 民集30巻2号79頁)との関係等で疑問とする見解もあるが、「シェトア事件」判例は、大半は、不使用取消審判における使用の事実の立証については、射程外と考えているようである(高林 龍「標準特許法」第3版260頁他)。
 なお、本件事案では、出訴期間についても争われ、知財高裁は、本件訴えに係る訴状は、知財高裁の夜間ポストに、令和5年2月20日午後5時から同月21日午前8時30分までの間に投函された(当裁判所に顕著な事実)として、原告に対して本件審決の謄本の送達は令和5年1月19日で、同日の30日後である同年2月18日が土曜日、19日が日曜日であることから、同月20日に本件訴えを提起したことにより、法律で定められた本件訴えの出訴期間(商標法63条2項、特許法178条3項)を遵守したとして、被告の出訴期間外の主張は退けられた。