2024-04-30

工藤莞司の注目裁判:出願商標「田中箸店」は自他商品の識別力がないとされた事例

(令和6年3月11日 知財高裁令和5年(行ケ)第10111号 「田中箸店事件」)

事案の概要 
 原告(請求人・出願人)は、「田中箸店」を標準文字で表した本願商標について、8類「スプーン、フォーク及び洋食ナイ フ」及び21類「台所用品(「ガス湯沸かし器・加熱器・調理台・流し台」を除く。)」を指定商品として登録出願をしたが、拒絶査定を受けて拒絶査定不服審判(2022-13855)を請求した処、 本願商標は商標法3条1項6号に該当するとして、特許庁は不成立審決をしたため、知財高裁に対し、審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した事案である。

判 旨 
 本願商標は、ありふれた氏「田中」と、箸を取り扱う店を表すものとして広く使用されている「箸店」を組み合わせた「田中箸店」を標準文字で表したもので、「田中」の氏又は当該氏を含む商号を有する法人等が経営主体である箸を取り扱う店というほどの意味を有する「田中箸店」というありふれた名称を、普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標で、本願商標の指定商品のうち、21類「台所用品(「ガス湯沸かし器・加熱器・調理台・流し台」を除く。)」には、「箸」が含まれる(証拠略)ことも考慮すれば、販売実績に基づく識別力の獲得が認められるなどの特別の事情がない限り(後記において判断)自他商品の識別力を有しないものと解される。
 本願商標が販売実績等により需要者に広く認識され出所識別力を取得したなどの特段の事情は認められないというべきである。

コメント 
 本件事案については、知財高裁も、本願商標は、ありふれた氏「田中」と、広く使用されている業種名「箸店」とを組み合わせたあふれた名称「田中箸店」を表したもので、全体としても自他商品の識別力がないと判断したもので、審決と同旨である。そして、使用実績による識別力の取得も認められないとした。
 なお、本件では3条1項6号適用であるが、同4号適用も考えられ(「商標審査基準」3条1項4号六3.参照)、その方が分かりやすいかと思うが、ありふれたもの同士の組み合わせでも全体としてはありふれてはいないものもあり得、それでも、ありふれた名称と需要者の認識に至ると認められるときは、6号適用が適切となる。