2024-04-09

工藤莞司の注目裁判:商標「Tibet Tiger」は「じゅうたん」等で識別力がなく、3条2項の適用も否定された事例

(令和6年2月28日 知財高裁令和5年(行ケ)第10116号 「Tibet Tiger」事件)

事案の概要 原告(請求人・出願人)は、「Tibet Tiger」を標準文字で表した本願商標について、27類「じゅうたん、敷物、マット、ラグ、ヨガ用マット、織物製壁紙、壁掛け(織物製のものを除く。)」を指定商品として登録出願をしたが、商標法3条1項3号及び4条1項16号該当を理由に拒絶査定を受けて、拒絶査定不服審判(2022-14461)を請求した処、特許庁は不成立審決をしたため、知財高裁に対し、審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した事案である。                                 

判 旨 本願商標の構成中の「Tibet」は「チベット(中国南西部の自治区)」を意味する英語であり(証拠略)、「Tiger」は「トラ」を意味する英語であって(証拠略)、これらはいずれも平易な英単語として我が国においても一般に親しまれている。本願商標は、構成全体として「チベットのトラ」ほどの意味合いを容易に理解、認識させるものと認められ、本件審決の判断に誤りはない。・・・取引の実情を踏まえると、「Tibet Tiger」の文字よりなる本願商標をその指定商品中、トラの図柄又はトラの形状のチベットじゅうたん、チベット製ラグ等に使用した場合、これに接する取引者、需要者は、単に商品の産地又は販売地であるチベット、あるいはトラの図柄又は形状といった品質を表示したものと理解するにとどまるというべきである。                                           
 原告が使用してきたと主張する標章は「チベタンタイガー」であり(証拠略)、「Tibet Tiger」という本願商標ではない。・・・商標としての同一性は認められないといえる。また、当該標章の使用期間、販売数量等について十分な立証があるとはいえない。商標法3条2項による登録を認めなかった本件審決に違法はない。                                                   
 上記で判断したところによれば、本願商標をその指定商品中、産地、販売地がチベットではなく、図柄や形状がトラと関係のない「じゅうたん、敷物及びラグ」に使用するときは、商品の品質の誤認を生ずるおそれがあり、商標法4条1項16号に該当する。

コメント 本件事案においては、本願商標「Tibet Tiger」は、3条1項3号の品質表示該当とされ、使用による識別力の取得も否定されて、品質誤認のおそれもあり4条1項16号該当とされた事例である。チベットの虎の意味合いを生じる文字商標ではあるが、当事者双方提出の証拠から、じゅうたんはチベット民族の伝統的な手工芸品で、世界4大じゅうたんの一つに数えられていると、また、「チベットじゅうたん」の中でも、トラのモチーフは、格の高い文様、由緒あるものと認定されている。そうであれば、指定商品じゅうたんなどに対する知財高裁の判断も肯定でき、正当なものと理解され、審決と同旨である。