2024-05-27

工藤莞司の注目裁判:出願商標は腕時計の形状表示で商標法3条1項3号に該当するとされた事例

(令和6年3月28日 知財高裁令和5年(行ケ)第10119号 腕時計図形事件)

事案の概要 原告(請求人・出願人)は、右掲図の構成からなり、指定商品14類「時計」とする本願商標について、登録出願をしたが拒絶査定を受けて、拒絶査定不服審判(2021-13234)を請求した処、特許庁は、商標法3条1項3号該当を理由とし使用による識別力の取得を否定して、不成立審決をしたため、知財高裁に対し、審決の取消しを求めて、本件訴えを提起した事案である。

判 旨 本願商標は、腕時計のバンド及び針(時針等)を除く部分の形状と認められ、また、本願商標は、八角形のベゼルやベゼルに固定するための六角形のネジ及び文字盤の立体的形状の格子模様を有するところ、原告以外の者が取り扱う「腕時計」においても、原告が主張する形状の3特徴(引用者注 ①八角形のベゼルを有していること、②八角形のベゼルの角に六角形のネジを配置していること、③文字盤の表面に立体的な格子模様を施していること)の全て又はいずれか若しくはこれらと同様の特徴を有する商品が実際に多数取引されている。そうすると、本願商標を構成する形状や模様は、腕時計において、採用し得る機能又は美感の範囲を超えて、商品の出所を識別する標識として認識させるとはいえないから、特段、需要者の目につきやすく、強い印象を与えるとはいえない。       
 本願商標のその形状は、文字盤の一部であり、商品の機能又は美感に資することを目的として採用されたと認められる。しかも、本願商標の形状に類似した他の製品が相当数存在すると認められる。本件製品の形状については相当のバリエーションがあり、それらも含めて宣伝広告がされており、その中には、本願商標の形状的特徴として原告主張の形状の3特徴のうち、一つないし複数を備えないものが多数存在しているほか、全てを備えないものも存する。また、本件製品の宣伝広告には、本件製品と並んで、原告が形状の3 特徴として主張する構成を全く備えない腕時計の宣伝がされているものもある。雑誌等の記事においても、本件製品の形状の特徴の紹介については必ずしも一定しない。本件製品には、原告社名を示す「AP」の文字等が記載されている。本件製品を紹介する広告等には、原告の社名等が記載されている。 したがって、一般の消費者は、文字盤に記載された文字、広告に記載された説明の記載から、本件製品を他の製品と識別すると考えられる。原告が形状の3特徴として主張する構成ないし本願商標の構成を備える製品が、市場においてどの程度販売されているのか、本件製品がどの程度の市場占有率を有するのか等についても認めるに足りる証拠はない。上記の事情を総合すれば、本願商標が需要者の目につき易く、強い印象を与えるものであったということはできないから、本願商標が使用により自他商品識別力を有するに至ったと認めることはできない。

コメント 本件判決は、本願商標については、審決同様、3条1項3号に該当し、3条2項の適用を否定したものである。本願商標の図形は、一見して腕時計を表したものとみられ、妥当な認定、判断と思われる。指定商品は「時計」であり、「腕時計」と絞るべきで、使用による識別力の取得の主張とは整合しない。そして、立証した使用する腕時計についても、本願商標とは一致しない形状のものも多数あると指摘されている。