2024-05-07

台湾:商標権者が税関登録後、商標権者以外の者がその登録の取消又は削除を請求できるか - Lee and Li

台湾商標法第75条第1項には、「税関が職務執行時に、輸入又は輸出する物品に明らかに商標権侵害のおそれがあることを発見した場合は、商標権者及び輸出入者に通知しなければならない」と規定されている。この保護の実施のため、同法第78条第2項の授権により定められた子法「税関による商標権益保護措置執行に関する実施規則(中国語「海關執行商標權益保護措施實施辦法」、以下「本実施規則」という)」第2条では、別途、「商標権者が輸出入貨物がその商標権を侵害する虞があると認めたときは、関連書類を添付の上、税関に登録保護(中国語「提示保護」)を申し立てることができる。前項でいう登録保護とは、商標権者が商標権存続期間中に税関に関連保護情報を提示し、その情報が税関の知的財産権データベースに登録される制度をいう」と規定されている。同実施規則第3条第1項では、「商標権者が登録保護を申し立てる時は、1つの商標登録番号につき1つの申立てとし、申立書に下記の資料を添付して税関に提出しなければならない。①税関が真正品及び侵害の特徴を十分に識別できる文字説明。②税関が真正品及び侵害品の特徴を十分に識別できる画像ファイル(例えば、真正品、模倣品又は真贋対比の写真やカタログなど)であり、画像の内容は商標登録により商標の使用を指定した商品項目でなければならない。③商標権証明書類。④連絡先情報。」と規定されている。前述の商標の税関登録保護制度により、税関はより効果的に侵害品を摘発し、商標権者の権益を確保することができる。しかし、第三者の商品が商標権者によって侵害品と認定され、前述の税関の知的財産権データベースに登録された場合、当該第三者は行政裁判所に、その登録に不服があるとして、行政救済を求めることができるのかという疑問が残る。この点に関して、最高行政裁判所は111年度上字第475号判決(判決日は2023年10月5日)において明確に否定する見解を示している。

本件原審は、訴外人たる商標権者(A社)が、被告たる関務署(日本の財務省関税局に相当)に係争商標の登録保護を申し立てた後、関務署は書簡(以下「係争書簡」という)で商標権者の上記申立てを承認し、商標権者が提出した原告(B社)の商品及びその包装の写真を模倣品の識別写真として知的財産権データベースに登録した、という事実関係を認定した。B社は商標権侵害はないと主張し、財政部(日本の財務省に相当)に訴願を提起したが、財政部は当該訴願を不受理とする決定を下した。B社はその後、台北高等行政裁判所(のちに知的財産及び商業裁判所へ移送)に控訴し、被告に対し、係争書簡及び訴願決定の取消し(主位的請求)、又は当該登録の削除(予備的請求)を請求した。上記主張に対し、原審たる知的財産及び商業裁判所は、係争書簡は行政処分であると認めたものの、原告B社は取消訴訟の原告適格を有しておらず、公法上の請求権も有していないとして、110年度行他訴字1号行政判決で原告の控訴を棄却した(判決日:2022年5月11日)。

B社は上記判決を不服として上告したが、最高行政裁判所は111年度上字475号判決で原判決を維持した。その理由は以下のとおりである。

主位的請求について

1. 取消訴訟の対象は行政処分でなければならない。さもなくば、その起訴は手続的要件に不備があり不適法なもので、補正不可能であり、決定によって却下されるべきである。行政処分とは、行政機関が公法上の具体的事件を規制するため、外部に対して直接に法的効果を発生させることを目的とする一方的な公権力行使である一方、行政機関が行う事実行為については、法的効果を直接発生させる目的ではなく、事実的効果を発生させるための行政措置であり、規制的性格を持たないため、行政処分に該当せず、取消訴訟の対象とはならない

2. 税関が登録保護を受理する目的は、商標権者から提供された情報を税関内部の知的財産権データベースに登録し、税関の内部職員が職務を執行する際の参考とすることである。輸出入貨物が「明らかに商標権を侵害しているおそれがある」か否かについては、依然として税関が各案件の実際の審査状況に基づき判断すべきであり、商標権者が提供した登録保護情報の拘束を受けるものではない。したがって、税関が登録保護を受理し、商標権者から提供された情報を税関内部の知的財産権データベースに登録することには、法的効果はなく事実上の情報提供の効果しか有さない。それは外部に直接法的効果を発生させるものではないため、法的効果を発生させる意図を有しない行政事実行為であり、行政処分ではない

3. したがって、上告人の係争書簡に対する取消訴訟は、その他の訴訟要件を欠くものであり、その不備は補正できないため、決定により却下すべきである。原審では、係争書簡は行政処分であるが、上告人が当事者適格を有さないとして、判決により主位的請求を棄却した。これは不適切にもかかわらず、上告人の訴えを却下する結論は変わらないため、この部分は維持されるべきである。

予備的請求について

1. 行政訴訟法第8条第1項は、「国民と中央又は地方官庁との間で、公法上の原因により財産上の給付が発生したとき、又は行政処分以外のその他の非財産上の給付を請求したときは、給付訴訟を提起することができる。公法上の契約により発生した給付についても同様である。」と規定している。したがって、国民は、上記規定に基づき、行政裁判所に対し、国の違法な行政行為によって生じた結果を除去し、侵害前の状態に回復するよう請求することができ、これが公法上の結果除去請求権である。結果除去請求権は、公法上の一般給付訴訟請求権とすることができ、以下の要件を満たす必要がある。(1)被告たる行政機関の行政行為が違法であること、又は行為時には適法であったが、のちに法改正により違法となること、(2)国民の権益を直接侵害すること、(3)侵害状態が継続しており、これを除去して行政行為前の状態に回復可能であること、(4) 被害者に損害の発生について重大な過失がないこと。

2. 被上告人の登録は本実施規則第3条第1項に定める条件を満たしており、違法性はない。

3. 税関の知的財産権データベースへの保護情報の登録は、税関内部の職務執行の参考となるにすぎず、商標権者がB社の商品を模倣品として登録保護情報にしたとしても、それは、B社が将来当該商品を輸出入する際に、税関が登録保護情報を参照した上で、当該輸出入商品が商標権を侵害するおそれがあると認定するリスクが高まるだけで、係争登録は上告人の権利又は法律上保護される利益を直接侵害したとは言い難い。また、税関による差止めの執行及び取消しは、商標法第72条、73条の規定に基づき、商標権者が税関に登録保護を申し立てたか否かとは関係ない(税関による差止めの執行及び取消に関する商標法第72条、73条の規定によれば、商標権者が税関登録保護を申し立てることを要件としていない)。そのため、税関が登録保護を受理したことは差止めの前段階の行為ではなく、将来、上告人の輸出入貨物が直接差し止められることにはならない。したがって、係争登録が上告人の権益を直接侵害しているとは認めがたい

4. 係争登録は違法ではなく、上告人の権益を直接侵害するものでもなく、結果除去請求権の要件を満たさないため、上告人の被上告人に対する係争登録の除去を求める予備的請求は理由がない

上記最高行政裁判所の見解が、実務上安定した見解となるかどうかは、今後の観察が待たれるところである。

本文は こちら (商標権者が税関に登録保護を申立て、税関により真正品・模倣品の資料がデータベースに登録された後、商標権者以外の者はその登録の取消又は削除を請求できるか)