2024-06-03

工藤莞司の注目裁判:結合商標について要部観察により、類似の商標と判断された事例

(令和6年4月9日 知財高裁令和5年(行ケ)第10117号 「東京TMSクリニック」事件)

 事案の概要 原告(請求人・出願人)は、本願商標「ベスリ会/東京TMSクリニック」について、44類「精神療法及び物理療法による治療、磁気刺激療法による精神治療、磁気刺激療法に関する医療情報の提供」(補正後のもの)を指定役務として登録出願した処、拒絶査定を受けて拒絶査定不服審判(2022-17296)を請求したが、特許庁は不成立審決をしたため、知財高裁に対し、審決の取消しを求めて本件訴訟を提起事案である。拒絶理由は商標法4条1項11号該当で、引用商標(登録第6481795号)は、「東京TMSクリ ニック」を標準文字で書してなり、44類「医業、医療情報の提供、訪問診療、健康診断、調剤、医療及び健康に関する情報の提供、栄養の指導」を指定役務としたものである。

 判 旨 取引の実際において、当該部分を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているとは認められないから、本願商標の構成中の「東京TMSクリニック」の文字部分(「本願商標の要部」又は「要部」という。)を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することが許されるというべきである。本願商標と引用商標とは、全体の外観は異なるものの、本願商標の要部と引用商標は外観上類似している上、本願商標の要部から生じる称呼及び観念と引用商標から生じる称呼及び観念は同一である。これらによって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合し、既に認定した本願商標の指定役務に係る取引の実情も考慮して全体的に考察すると、本願商標と引用商標が同一又は類似の役務に使用された場合には、その役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるといわざるを得ない。したがって、本願商標は、引用商標と類似する商標と認められる。本願商標の指定役務である44類「精神療法及び物理療法による治療、磁気刺激療法による精神治療、磁気刺激療法に関する医療情報の提供」は、引用商標の指定役務中の44類「医業、医療情報の提供、医療及び健康に関する情報の提供」に含まれ、また、本願商標の指定役務は、引用商標の指定役務中の44類「訪問 診療、健康診断、調剤」と類似する。

 コメント 本件判決は、商標の類否判断において、本願商標については、要部観察をして引用商標とは類似すると判断したもので、審決と同旨である。原告は、「東京TMSクリニック」の部分は識別力がないと主張して要部観察を否定したが、裁判所は、「TMS」の語から直ちに「経頭蓋磁気刺激」や、鬱病の治療方法としての「TMS治療」を想起するとは認められず、「東京TMSクリニック」 の文字部分が一連となって、役務の提供主体である診療所の名称を表すものとして、出所識別標識としての機能を果たすと判断し、これを斥けた。            
 因みに、「東京TMSクリニック」について、調査の結果、識別力がないのとの確信を得たのであれば、拒絶理由通知又はその査定の段階で、引用商標の登録について無効審判を請求するのが商標法の普通の対応である。