2024-06-24

工藤莞司の注目裁判:審判手続上の瑕疵を認めたが審決結論に影響を及ぼさないとして取消請求を棄却した事例

(令和6年4月24日 知財高裁令和5年(行ケ)第10109号 「奇跡のラカンカ」事件)

事案の概要 原告(請求人・出願人)は、商標「奇跡のラカンカ」を横書きし指定商品30類「ラカンカを加味した菓子(果物、野菜、豆類又はナッツを主原料とするものを除く。)、ラカンカを加味したコーヒー、ラカンカを加味した食用粉類、ラカンカを加味したパン、ラカンカを使用した調味料、ラカンカを加味した穀物の加工品、ラカンカを加味したぎょうざ、ラカンカを加味した紅茶、ラカンカを加味した茶」(補正後のもの)について登録出願をした処、商標法3条1項3号該当を理由に拒絶査定を受けて拒絶査定不服審判(2022-6605)を請求したが、特許庁は3条1項6号該当として不成立審決をしたため、知財高裁に対し、審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した事案で、その中で、拒絶査定と異なる拒絶理由(3条1項6号)により不成立とした本件審判には手続上の瑕疵があるとも主張した。

判 旨 (手続上の違法性について) 商標法は、登録出願に対して拒絶査定をすべき場合を15条各号において限定的に列挙し、法定の期間内に拒絶の理由を発見しないときは商標登録の査定をしなければならない旨を定める(16条)。このような商標法の構造に照らして、拒絶理由通知にいう「拒絶の理由」とは、商標法が定める具体的な登録拒絶事由(根拠条文)を示して、これに該当することの説明をするものと解すべきであり、根拠条文が異なれば、原則として、それのみをもって「異なる拒絶の理由」に当たるというべきである。そうすると、本来、55条の2第1項、15条の2所定の新たな拒絶理由通知が必要であったところ、この手続を履践することなく本件審決に進んだ本件審判の手続には瑕疵があるというべきである。・・・仮に、原告に適式な弁明の機会が付与されていたとしても、本件意見書で自ら主張していた内容を覆すのでない限り有効な反論はなし得ないし、本件意見書と矛盾する内容となることを承知の上であえて反論をしたとしても、禁反言の原則に反する主張又は合理的理由のない場当たり的な対応と受け止められる状況が容易に予想されたところである。以上の事情を総合すれば、本件審判の手続に瑕疵はあるものの、その手続上の違法は、審決の結論に影響を及ぼすものではないと解するのが相当である。
 本願商標は、「奇跡のラカンカ」を横書きしてなるところ、証拠(略)によれば、「奇跡」の文字は、「奇跡の果物」、 「奇跡の野菜」、「奇跡のブドウ」、「奇跡のイチゴ」などといったように、「常識では考えられないような」といった程度の意味合いで広く一般に使用されており、飲食料品を取り扱う業界において商品ないしその原材料の宣伝広告に使用されていることが認められる。そうすると、本願商標をその指定商品に使用しても、取引者、需要者は、商品の宣伝広告に一般に使用されるような「常識では考えられないような羅漢果」程の意味合いを表示したものと認識するにすぎず、何人かの業務に係る商品であることを表示したものと認識することはないといえる。したがって、本願商標は、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標であるから、3条1項6号に該当する。       

コメント 本件判決は、審査と審判での拒絶理由の条文が違い、意見書提出機会を付与しなかったことは違法と認めたが、その上で、仮に意見書提出の機会を付与しても、先の意見書の内容と異なるものとはなり得ないとして、手続上の違法は審決結論には影響しないと判断したもので、稀有な裁判例である。本願商標は、「常識では考えられないような羅漢果」程の意味合いを表示と認定しているが、審決は具体的品質ではないとして、3条1項3号から6号へ変更したのかもしれないが、大差はないだろう。