2024-07-29

工藤莞司の注目裁判:商標権侵害事件で損害賠償請求が認められた事例

(令和6年4月26日 東京地裁令和5年(ワ)第70142号 「トリニティ」事件)

事案の概要 
 本件は、原告が、被告らが、株式会社トリニティと共同して、株式会社トリニティの役務に関する広告を内容とする被告各ウェブサイトに、被告各標章(「TORINITY」、「トリニティ」外)を付して電磁的方法により提供したことが、原告が有する商標権(下掲参照)を侵害しているとして、被告会社に対し、被告各標章をインターネット上の広告に付すことの差止め及び被告各ウェブサイトからの被告各標章の削除並びに、被告A iとの共同不法行為責任(民法709条、719条1項)に基づく損害金及びこれに対する遅延損害金の連帯支払等を求めた事案である。                                                  
 原告商標権は、商標「トリニティ」(標準文字) 指定役務44類「美容、理容、エステティック美容、美容痩身、美容・痩身・健康増進に関する情報の提供、美容・痩身・健康増進に関する相談・助言又は指導」である。

判 旨 
 争点1(被告らが株式会社トリニティとの共同不法行為責任又は任務懈怠責任(被告Aiについて)を負うか)について、被告Aiは、本件エステサロンの経営者である株式会社トリニティと共謀して原告商標権の侵害を行ったか又は株式会社トリニティによる原告商標権の侵害を幇助したものと評価することができるから、本件行為2及び3による原告商標権の侵害につき共同不法行為責任(民法719条)を負うものと認められる。
 争点2(原告の損害発生の有無及び損害額)について (ア) 商標法38条2項所定の「利益」の意義 商標法38条2項所定の「利益」の額は、商標権を侵害した者の当該侵害に係る役務の提供等による売上高から、その役務の提供等に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額であり、その額の主張立証責任は商標権者側にあるものと解される。 (イ) 売上高 前提事実⑸のとおり、令和4年2月22日から令和5年3月27日までの間の株式会社トリニティの本件エステサロンに係る売上高は、合計183万6520円である。以上によれば、商標法38項所定の「利益」の額は、売上高と同額の183万6520円であると認められる。以上によれば、商標法38条2項により、原告の損害の額は183万6520円と推定されるが、原告は同項に係る損害額を167万7790円と主張しているから、同額の限度で損害を認める。

コメント 
 本件事案は、エステサロン事業に係る商標権侵害事案で、原告請求の一部が認容されて、損害賠償請求が認められたものである。被告の一部については、共同不法行為が成立した。そして、損害額については、被告の売上高が損害額と推定された(商標法38条2項)。使用の差止請求は認められていない。