2024-07-30

工藤莞司の注目裁判:宗教法人間で争われた登録無効不成立審決の取消訴訟が棄却された事例

(令和6年5月21日 知財高裁令和5年(行ケ)第10123号 「世界メシア教」事件)

事案の概要 被告宗教法人が有する本件商標「世界メシア教」(登録第6326055号)について、指定役務 45類「宗教集会の運営、宗教儀式の実施、宗教集会の運営に関する 情報の提供、祈祷の実施、お祓い、異性の紹介、養子の斡旋、 婚礼(結婚披露を含む。)のための施設の提供、結婚式の企画 及び手配、葬儀の執行、墓地又は納骨堂の提供、葬儀の一環として行う埋葬、施設の警備、身辺の警備、身元調査、探偵による調査、遺失物の捜索・返還、占い、身の上相談、霊的・ スピリチュアルな視点による身の上相談(以下略)」 である処、これに対し、原告宗教法人「世界救世教」は、商標法4条1項7号、6号及び15号違反で、登録無効審判(無効2022-890087号)を請求したが、特許庁は、不成立審決をしたため、原告は審決の取消しを求めて、本件訴えを提起した事案である。

判旨 商標法4条1項7号所定の「公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標」には、「商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護する」 という商標法の目的(同法1条)に照らし、当該商標の登録出願の経緯におい て、公正な商標秩序に反し、著しく社会的相当性を欠く出願行為に係る商標も含まれると解される。 以下、この観点から検討する。被告が「世界メシア教」の名称を用いて活動することが宗教法人法に違反するか否かを判断するまでもなく、被告が規則において定める名称と異なる「世界メシア教」の名称を用いて活動していることは、本件商標が商標法4条1項7号に該当すると解する根拠とならないというべきである。
 本件商標と引用標章(「世界救世教」)は、外観及び称呼が異なり、観念においても類似のものといえないことは、前記のとおりである。 また、原告の名称である「世界救世教」は、原告の信者や、宗教に関心を有する者に認識されているといえるとしても、本件商標の指定役務の取引者及び一般の消費者である需要者に広く認識されていると認めるに足りる証拠はないから、引用標章が著名であるとは認められない。したがって、商標法4条1項6号のその余の要件を満たすか否かについて判断するまでもなく、本件商標が同号に該当するとは認められない。
 以上の事情を総合すると、本件商標をその指定役務に使用したときに、その取引者及び需要者において、当該指定役務が原告の業務に係る商品又は役務であると誤信するおそれがあるとは認められず、広義の混同を生ずるおそれがあるとも認められない。

コメント 本件事案は、無効審判不成立審決の取消訴訟で、不成立審決が維持されて、審決が支持されたものである。原告と被告は共に宗教法人で、嘗ては包摂と被包摂の関係にあったもので、そちらの争いとみられ、商標法上の争いは、無効理由の選定からも窺われるように直接的なものではなく、馴染まないと思われる。因みに、「天理教豊文教会事件」平成18年1月20日 最高裁平成17年(受)第575号 民集60巻1号137頁)があり、そこでは宗教活動は、不正競争防止法上の営利活動はもとより、非営利活動にも当たらないとした最高裁判例があり、商標法についても、同様に解される。