2024-07-08

工藤莞司の注目裁判:登録商標「雨降」の無効審判不成立審決の取消訴訟が棄却された事例

商標法4条1項7号,10号,11号,15号及び19号該当を理由とした無効審判不成立審決の取消訴訟が棄却された事例(令和6年5月16日 知財高裁令和5年(行ケ)第10122号 雨降事件)

事案の概要 原告(請求人)は、被告(本件商標権者・被請求人)が有する33類「清酒、日本酒、焼酎、合成清酒、白酒、直し、みりん、洋酒、果実酒、酎ハイ、中国酒、薬味酒」を指定した本件商標(別掲登録第6409633号)の登録に対して、商標法4条1項7号,10号,11号,15号及び19号該当を理由として登録無効審判を請求(2022-890068)をした処、特許庁は不成立審決をしたため、知財高裁に対し、審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した事案である。引用登録商標は33類等を指定した「AFURI」(登録第6245408号)、及び「ラーメンの提供」について使用する商標「AFURI」である。

判 旨 本件商標と引用商標とを比較すると、外観においては、両者は、漢字と欧文字とで異なり、本件商標が筆文字風であることや右上方から左斜め下へ書してなるのに対し、引用商標は左から右に横書きしたものであって、外観は明らかに異なっている。また、称呼においては、本件商標が「アメフリ」、「ウコー」の称呼を生じるのに対し、引用商標はそれらの称呼は生じず、「アフリ」の称呼が生じるものである。この点、原告は本件商標において「アフリ」の称呼が生じると主張するところ、「雨降山」を「アフリヤマ」と称呼する場合があること(証拠略)も踏まえると、「雨降」から「アフリ」の称呼が生じないとはいえず、その場合本件商標と引用商標の称呼が同じとみる余地もある。もっとも、観念においては、本件商標は「雨の降ること。雨が降っている間。雨降り」といった観念が生じるのに対し、引用商標は同様の観念は生じず、特定の観念を生じるものではない。 そうすると、本件商標と引用商標は、外観において相違し、観念においても相違するものであって、称呼において共通となる余地があるとしても、外観及び観念の相違は称呼の共通性による印象を凌駕するものといえる。以上によると、本件商標と引用商標は、外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象等を総合し、かつ、その商品又は役務に係る取引の実情を考慮しても、役務の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるとまではいえず、互いに類似するものとは認められない。                           本件商標の指定商品である「日本酒等の酒類」において「AFURI」が周知であると認めるに足りる証拠はなく、「日本酒等の酒類」と「ラーメンの提供」の需要者が一定程度重なる部分があるとしても、両者に密接な関連性があり需要者の相当部分が共通するとも認め難い。以上の事情に照らせば、本件商標を「日本酒等の酒類」に使用するときは、その取引者及び需要者において、原告と緊密な関係のある営業主の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあるとはいえない。

コメント 本件事案では、原告請求の無効審判不成立審決について、知財高裁での取消訴訟も斥けられたものである。本件商標が「雨降」に対し、引用登録商標が「AFURI」であり、また、本件商標の指定商品「日本酒」等に対し、引用使用役務が「ラーメンの提供」で取引分野は遠く離れ、11号,15号の該当性は困難な例で、知財高裁の判断は正当である。
 知財高裁は、基本判例を3件引用して丁寧に判断している(「氷山印事件」最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日民集22巻2号399頁、「保土ヶ谷化学社標事件」最高裁昭和47年(行ツ)第33号同49年4月25日審取判決集昭和49年443頁、「レール・デュタン事件」最高裁平成10年(行ヒ)第85号同12年7月11日民集54巻6号1848頁)。原告は、他に7号,10号,19号も無効理由としたが、前掲各判例も踏まえて、事前に事案を精査し、的を絞って請求すべきであろう。