2024-08-05

工藤莞司の注目裁判:出願商標「デジタル医療モール」は識別力がないとされた事例

(令和6年7月8日 知財高裁令和6年(行ケ)第10011号 「デジタル医療モール」事件)

事案の概要 
 原告は、「デジタル医療モール」を標準文字で表した本願商標について登録出願した。その指定商品及び指定役務は、9類「電子応用機械器具及びその部品、コンピュータプログラム及びコンピュータソフトウェア、アプリケーションソフトウェア、記録された又はダウンロード可能なコンピュータソフトウェアプラットフォーム」、35類「医師の紹介、市場調査又は分析、商品の販売に関する情報の提供、経営の診断又は経営に関する助言、事業の管理、コンピュータデータベースへの情報編集、消費者のための商品及び役務の選択における助言と情報の提供」及び44類「医療に関する相談、医療に関する相談の媒介、医療に関する情報の提供、医療に関するコンサルティング、インターネットによる医.療に関する情報の提供、調剤、服薬指導、健康診断、健康管理、ダイエッ ト・栄養摂取又は健康管理に関する情報の提供、栄養の指導、ダイエット・健康管理に関する助言・指導・診断」である。原告は、本願商標が商標法3条1項6号に該当を理由に拒絶査定を受けて、拒絶査定不服審判(2023-7242)を請求したが、特許庁は不成立審決をしたため、知財高裁に対し、審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した事案である。

判 旨 
 以上のような実情を踏まえると、本願商標は、「デジタル」技術を利活用して行われる仮想的な「医療モール」、すなわち「様々な医療機関に係るサービスを、デジタル技術を用いて構築した 1 か所のプラットフォーム上で 提供又は利用できる仕組み」といった意味合いを容易に理解・認識させるものと認められる。そして、本願商標に接し、上記意味合いを理解・認識した需要者は、本願商標について上記の仕組みの下で提供される商品又は役務であることを表現するための語句と理解、認識するにとどまり、自他商品役務の識別標識としては認識しないといえる。原告は、本願商標の語が、本願標の指定商品役務に関し、他で一般的に使用されているという実例がないことから、造語であり、指定商品役務との関係で識別性を有すると主張する。 しかし、商標法3条1項6号の適用において当該商標が現実に使用されていることを要求するものではない。本願商標に関して他の使用例がないことは、上記2の認定判断を妨げるものではない。

コメント 
 本件事案については、知財高裁も、3条1項6号該当と判断し、審決と同様である。原告らは、他に使用例ないとも主張したが、6号の適用において当該商標が現実に使用されていることを要求するものではないとされた。同号は、取引者、需要者の認識の問題であるから、他に使用例があれば、認識への判断へ至る度合いが増すだけであろう。
 最近、本願商標のような一般的な既成語の出願が目立つが、その意味合いが容易に理解されて識別力なしとされ、その上時には、独占不適とされる商標も見受けられる。